2022.02.18

真珠工房 真珠の里

真珠を愛でたくなる!真珠を育むリアス海岸の魅力を伝える「真珠工房 真珠の里」山本長久さん家族の物語。

リアス海岸として有名な英虞湾(あごわん)は山からの養分が豊富な水質で、真珠を育むアコヤ貝の餌となるプランクトンが多い。また内海なので波が穏やかであり真珠の養殖に適し、御木本幸吉が日本で初めて真円真珠養殖に成功した真珠養殖発祥の地として世界的にも有名だ。

志摩市志摩町越賀(こしか)北部の湾は英虞湾の中でもさらに入り組んでいて、台風でも波が荒れにくく波がとても穏やか。
真珠養殖が日常の風景となっている越賀で、真珠養殖を営む生産者が、真珠の取り出し体験やアクセサリーづくり体験などを手掛ける「真珠工房真珠の里」を訪ねた。

 

家業を新たな形で展開

「真珠工房真珠の里」を運営するのは、代表取締役の山本長久さん。長久さんは、妻の珠未さんと二人で「真珠工房真珠の里」を始めた。現在は、娘夫婦と共に家族で経営している。その経緯を伺った。

長久さん:海の環境の変化や、他県や海外など真珠生産地の増加の影響で同じ地域の同業者が次々と廃業する中、先祖から代々受け継いできた家業である真珠養殖を次の世代へと続けていきたいという想いで始めました。真珠を自分の手で取り出した時の喜びや、自分のオリジナルのアクセサリーにすることを「体験」して身近に真珠を感じてもらい、真珠を好きになってもらえたらええねぇ。

元は真珠の核入れ作業をする小屋を改修して、真珠の取り出しやアクセサリーづくりを体験できるスペースにしている。

昔は村中に100軒程の真珠養殖屋があったが、今では15軒まで減っている。また20年前に発生した赤潮の被害でアコヤ貝が大量死したことや、長久さんが体調を崩しこともあり、体力のいる真珠養殖の仕事に厳しさを感じていて、辿り着いたのが真珠の第6次産業化。自分たちで育てた真珠を売っていく必要性を感じ、珠未さんとアイデアを出し合いながら二人三脚で12年前から始めた。

海に浮かぶBBQ小屋

今では真珠の取り出しやアクセサリーづくりの他にも、釣り、シーカヤック、BBQなど、リアス海岸の魅力を存分に楽しめる体験を用意している。

 

 

アコヤ貝に抱かれて、手塩に掛けて育てられる真珠。

長久さん:真珠養殖は本当に大変な仕事。どれだけ丁寧に育てても、綺麗な真珠ができるのは全体の約5%です。海次第、貝次第で、多くを自然環境に左右されます。

小さなアコヤ貝に付いている牡蠣などを取り除く様子。

真珠養殖は、アコヤ貝を稚貝から育てるところから始まる。これもただ真珠を大きく育てれば良いのではなく、5㎜以上で真円で鏡のように顔が映るほどの輝きがあるピンク色の美しい真珠を育てるためには、貝殻の掃除を丁寧に繰り返し、付着する牡蠣などの外敵から身を守り、アコヤ貝の生命力を高めなければいけない。
アコヤ貝が小さい時は1週間に1回以上は、重さ15キロにもなる養殖用の網を人力で引き上げ、アコヤ貝を一つひとつ網から出して丁寧に手作業で綺麗にする。農業で例えるなら雑草抜きの様な、地味ながらも必要な作業となる。

長久さん:真珠養殖はアコヤ貝を育てるのも大事ですが、真珠を綺麗に育て上げるのがもっと大事です。そのためには長年かけて積み上げてきた技術と経験が必要です。

約2年育てたアコヤ貝の体内に、真珠の型となる核と真珠層を分泌する組織を手作業で移植する「核入れ作業」をする。その後、丁寧に1つひとつのアコヤ貝を網に分けて再び海に戻す。海に戻したら何もせずに放っておく訳ではなく、1週間に1回は状態をチェックするため海から引き揚げ、汚れがつけば掃除をしながら育てる。このように2年以上手塩にかけて、アコヤ貝を育て真珠はアコヤ貝の中で育っていくのだ。

手塩にかけて育てたアコヤ貝だが、開けてみるまでどのような真珠が入っているかわからない。真珠の取り出しは期待と不安があり、立派に育った美しい真珠が出たときの喜びは大きいという。

 

真珠への想いが入る、貴重な体験プログラム。

お客さんに真珠の取り出しの楽しさを体験してもらい、真珠がどのように、どんなところで育っているのか知っていただき、真珠の魅力を感じてもらうために体験プログラムが始まった。

長久さん:最初は妻が中心となり真珠の取り出し体験などを行ってくれました。開始から9年後の2018年には、年間10,000人以上もお客さんが訪れてくれるようになりました。コロナ前には外国の方も多く訪れて、貝から真珠を取り出す体験を楽しんでもらいました。筏から見る英虞湾の美しさも好評なんですよ。妻ががんばってくれたお陰です。ありがたいと今も感謝しています。

真珠のネックレスを付けた看板犬

体調を崩した後の当時を思い返しながら、珠未さんへの感謝の想いを噛みしめるように話す姿が印象的だった。

体験を案内してくれた和生さん

真珠の取り出し体験は、筏からアコヤ貝を引き上げて選ぶところから始まる。体験を案内してくれるのは長久さんの娘・知子さんの旦那である和生さんが担当。元々家業が真珠の加工業である和生さんは、今は長久さんと一緒に真珠養殖も行っていて、真珠を育てるところから販売するところまでを熟知している真珠のプロフェッショナルだ。

見た目からは誰もどんな真珠が入っているか分からないので、体験者も直感でアコヤ貝を選択する。

次に選んだ真珠を開ける。どのような真珠が出てくるのか、ドキドキ感に期待がふくらむ。

和生さん:この瞬間がこちらとしてはヒヤヒヤします。真珠が入ってなかったらどうしようって(笑)。

笑いで包み込まれながらのアットホームな雰囲気で体験は続く。

貝を開く作業は指を切る可能性があるのでお店側が担当。

アコヤ貝から真珠を自分で取り出す瞬間

綺麗な真珠の登場!

和生さん:色も形も良い綺麗な真珠は、100個に5個くらいしか出ません。真珠は手間をかけても少ししか良いものが取れない貴重なものなんです。だから宝石店で売られている真珠のネックレスなどは驚くような値段が付いているんですよ。

体験を通して生産者さんからの直接お話を聞き、少しずつだが真珠を見る目が変わっていくのを感じた。丹精込めて育てられた真珠は、取り出した後にそのまま持ち帰ることも、パーツを選んでキーホルダー、ピアス、ネックレスなどのアクセサリーにすることもできる。自分で取り出した真珠で世界に一つだけのアクセサリー作りができるのは、貴重な体験だと話すお客さんも多いという。想いを込めて作ったアクセサリーを大切な人に贈るお客さんもいるそうだ。

取り出した真珠でネックレスづくり

 

 

輝く真珠で、新たな地場産業の未来へ。

作業小屋で長久さんと貝殻の清掃作業をする和生さん。和生さんも真珠の魅力をもっと多くの人に知ってもらいたいと、将来は真珠の養殖作業の一部も含めた体験プログラム化を考えている。海で体験者が自らが育てたアコヤ貝から真珠を取り出し、アクセサリーにすることで、真珠への理解を深めてもらい、より深い思い出にしてもらうことが狙いだという。

和生さん:生き物が育つ現場を知ることは楽しいし大切なことだと思います。そして、シーカヤックやBBQなどの体験プログラムの幅や深さを増して、より多くの人がここで楽しめるようにしたいです。

長久さんの横で、照れくさそうにしながらも真剣に話す様子が印象的だった。和生さんが仰るとおり、伊勢志摩の一大産業であった真珠を核にリアス海岸の魅力を体験することは、ある意味この地域の魅力をより深く知れる貴重な体験だと思う。

綺麗に掃除をされて海に戻されるアコヤ貝

和生さん:体験として小さなアコヤ貝の掃除をして海に戻し、その貝が成長したときに再びここにきてもらい、真珠を取り出すだけでも面白いプログラムだと思うんですよ。

体験者からすると、あのとき伊勢志摩に旅行に行って掃除をした自分たちのアコヤ貝がこんなにも大きくなり、美しい真珠を育てていたんだ、という体験には感動が付いてくると思った。それは例えば、あのとき一緒に貝を掃除した自分の子どもが、今はこんなにも成長したという時間をリンクし、想いを馳せることもあるだろう。

長久さんや和生さんが子どものお世話をするように、丁寧に掃除をして綺麗になったアコヤ貝は、今日も穏やかな英虞湾の中でじっと真珠を育み続けている。
そんなゆったりとした時間が流れる美しい英虞湾を眺めていると、真珠を愛でたくなる気持ちになるのでした。

 


 

取材協力
真珠工房 真珠の里

〒 517-0704 三重県志摩市志摩町越賀1125-88
TEL 0599-85-0515
HP http://s-tamachan.net

取材:2021年12月1日
文:WEBマガジンOTONAMIE 大下航平
写真:松原 豊

上に戻る