2025.04.01

CAZACLE(カザクル)サイクリングステーション(株式会社地域資源バンクNIU)

多気町の魅力を自転車で巡る!CAZACLE(カザクル)西井勢津子さんの物語。

 

三重県多気町で、地域の魅力をたっぷり味わえるサイクリングツアーを企画・運営している「カザクル」がある。
「カザクル」は風とサイクルを足した造語だ。人が心地よい、と感じるのはどういうときかと考えたとき、脳の中に風が吹くという感覚、頭の中に風が吹くときなのではないか、とそんな仮説を立てて、屋号にしたそうだ。

 

カザクルをはじめたきっかけとは・なぜ自転車なのか?

 

西井さん:私は未活用の地域資源を活用するというミッションで会社を立ち上げました。カザクルはそのミッションの実現に向けてスタートしているんです。なぜ自転車かというと、夫が自転車の専門家だったからです。2013年に多気町さんが自転車の町プロジェクトを立ち上げられました。また同時に、株式会社シマノさんという自転車部品のメーカーさんと一緒に研究が始まりました。その研究の中で、自転車というのは健康(身体)に良いだけでなく、こころも喜ぶ、気持ちいい乗り物である、ということが感性工学を用いた実験の結果、わかったんです。

 

西井勢津子さん

 

自転車が気持ちいい、とはどういうことか。感性工学というアプローチがある。自転車がなぜこんなにも気持ちいいのだろうか、という研究テーマだった。自転車と徒歩(ウォーキング)で同じような運動の負荷をかけて計測し比較すると、歩く方は不安や不快、モヤモヤした、つまらないなどの不快な印象が出現した。しかし、自転車はアンケートをすると、徒歩と同じ運動量にも関わらず、ワクワクする、心地よい、快適などのポジティブな印象が残っていた。つまり、自転車に乗ると気分爽快になる傾向が強い、ということがデータでも証明されたのである。そこでターゲットを「自転車を好きな人」に絞るのではなく、多気町を訪れた方々に、自転車を使ってこの地域を巡ってもらおう、自転車で気持ちよくなってもらおう、という思いのもとカザクルは誕生したのである。

 

西井さん:一方で、観光のまちというイメージがない多気町に、VISONがオープンするというニュースがめぐりました。そうなると、VISONで始まりVISONで終わっちゃうお客さまっていうのは絶対増えるだろうから、VISONをきっかけに多気町内にも巡ってもらえるような仕掛けが必要になるんじゃないかと思って。

 

自転車はツール、道具の1つだ。ツアーの体験もまたツールなのである。一方で、VISONがオープンするというニュース。田舎の方を好きな人たちにこそ、VISONをきっかけにさまざまな地域資源を巡ってもらえるようになるのではないか、という思考、この2点で自転車のツアーというのを始めたのだ。

 

自転車というよりも、未活用の地域資源を活用することが大事なミッション

 

西井さん: カザクルを始めるまでは、地域資源活用に関する活動を続けていました。2010年に会社を作ったので、いろんな自治体さんのお手伝いをしたり、それこそ自転車の町プロジェクトっていうので、多気町さんとタッグを組んで、様々な地域資源の活用方法を考えたり。自転車を使ってですけど。そんな感じで、自転車×(かける)地域資源活用みたいなところをいろいろな案件をいただいてやってきました。

 

子ども用も含め、30台の自転車が用意されている

 

西井さん: 自転車は20台あります。子ども用を入れると30台になりますね。電動自転車もあります。

 

子ども用が多いのは、「マウンテンバイクの学校」という活動をしているからだ。
これは観光客向けではなく、近所の子どもたちのためのスクール活動である。月に2回ほど、自転車好きな男の子たちが元気に集まってきて、活動をした後、満足して帰っていく。その様子は活気に満ち溢れているという。

 

マウンテンバイクの学校

 

西井さん自身も松阪市の出身で、多気町丹生というこの地にはもともと縁もゆかりもなかったが、今は移住者も多いという。この場所は伊勢街道と和歌山別街道と熊野古道、3つの道が結節している。昔から交通の要だった。交通の要ということはいろんな人が行き交う場所である。

 

今も昔も交通の要となっている多気町の町並み

 

丹生宿てくてく七巡り

 

西井さん:考えると納得がいくのは、もともと地域の風土として、外から来た人たちに対しても開かれているのかなと思います。サイクリングツアーで地域を走っていると、道すがらの人に「こんにちは」って挨拶するんですけど、お客さんも私の後ろから「こんにちは」って必ず挨拶してくれるんですよ。そうすると地域の方も「こんにちは」って返してくれる。警戒心で挨拶してくれないということはないですね。

お客さんにとって、一流のお店や観光施設以上にこの地域の人と挨拶できたということが何より楽しい経験のようだ。 特に自転車のいいところは、気軽に挨拶できるところである。歩いていると、挨拶のタイミングや「挨拶を返してもらえなかったらどうしよう」という緊張感がある。しかし、自転車で通り過ぎる分には、言いっぱなしでもいいわけである。「こんにちは」と言って挨拶が返ってこなくてもいいから気が楽だ。
また、親のスピードと子どものスピードがさほど変わらないのも、自転車の魅力のひとつだ。歩幅の違いがないから大人も子どもも同じように楽しめる。子どものスピードに合わせて待たないといけない、子どもだけ楽しむ、ということがなく、一緒に楽しむことができる。

 

西井さん: お客様も、親子でサイクリングを楽しんで、ゆっくり自然を楽しみたい方が多いですかね。

 

サイクリングを楽しむお客様

 

西井さん:海外のお客様では、サイクリングに馴染みがあるヨーロッパ系かアメリカが多いです。英語も対応しています。

 

食事にもこだわりがある。多気町が誇る「特産松阪牛」を育てている肥育農家さんのところにまでサイクリングしてスキヤキを食べにいく「スキヤキサイクリングツアー」だ。ただスキヤキのお店にいくのとは違い、サイクリングの道中に、お肉以外のお野菜の具材を調達する。ゴールに到着すると、肥育農家さんがカフェで待っていて、牛のことや美味しさの秘密、そして松阪流スキヤキの作り方を教えてくれる、体験型のグルメツアーだ。

 

スキヤキサイクリングツアー

 

外国の方のなかには、牛舎見学ができない国も多いため、そういった方々には、築300年の古民家ですき焼き体験ができるプランもあるそうだ。地域のいいもの、美味しいものを全部盛り込んだツアーになっている。

今後もインバウンド向けに力を入れていくが、自転車自体を使わないインバウンド向けツアーも考え中。

未活用の地域資源を磨く西井さん。西井さんが現在、多気町でまだまだPRできると考えているのが「特産松阪牛」だ。実は松阪牛は、海外の人にとっては神戸牛よりも知名度が低いそうだ。多気町には誇りをもち、いのちと美味しさと向き合う農家さんたちがいる。この誇りと技術がずっと多気町で続くように、西井さんは今そう考えて、肥育農家さんとタッグを組んで見学ツアーを計画中だ。

 

 


 

取材協力
CAZACLE(カザクル)サイクリングステーション(株式会社地域資源バンクNIU)
〒519-2211 多気郡多気町丹生1718-1
電話番号: 0598-49-4800

取材:2025年1月16日
文 :後藤宏行
写真:大西康博

※写真一部「CAZACLE(カザクル)サイクリングステーション(株式会社地域資源バンクNIU)」提供

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