2025.04.01

Cafe FRAGARIA

濃厚な味のいちごが溢れ出す、いちご農園FRAGARIA そしてCafe FRAGARIA。自分たちで始めたいちごの有機栽培を推し進めている平松夫妻の物語。

 

三重県津市安濃地区太田。安濃平野の米作で知られるのどかな土地に知る人ぞ知るビニールハウスが立っている。春の便りか温かい風が吹く日、いちご栽培とカフェ経営に取り組む平松さん夫妻を訪ねてビニールハウスを訪れた。温かく出迎えてくれた平松孝之さん、平松香歩里さんにお話を伺った。

 

新規就農でハウスいちご栽培を始め、やがて有機栽培へ

 

平松夫妻がいちご栽培を始めたのは8年前。地元で兼業農家の家に生まれ育った孝之さんと、伊勢出身の香歩里さん。
平松孝之さんの実家は元々兼業農家だったが、平松さんの父が米作を行い、平松さん自身は勤めに出ていた。いちご栽培を始めたのは妻の香歩里さんであった。元々土地もあり、農業をやりたいという希望を持っていた香歩里さんが、米作だけでは相当大規模にやらないと生計がたてられないからと、自ら松阪の農業大学校に通った。そこで1年いちご栽培を学び、新規就農ということに。イチゴ栽培を言い出したのも始めたのも妻の香歩里さん。

いちごの様子を見る平松香歩里さん

 

農業大学校では、新規就農してすぐ稼げる品目がトマトやいちごだと教えられた。露地野菜はやはりどうしても大きな面積がないと生活できない。
ブドウや梨の場合、植えてから7年くらいは生活できるほど収穫できない。
新規就農しすぐ収入を得ようと思うと、どうしても施設野菜になる。

香歩里さん:そうするとトマトかいちごかというチョイスになり、いちご好きなので、いちごを選びました。

これまでの経緯を話す平松孝之さん

 

孝之さん:自分は会社員をやっていました。妻は日々1人で収穫とパック詰めをしていた。かなり朝早くからいちごを採って夕方までパック詰めして、芸濃の方まで出荷のために毎日通っていた。僕も仕事が終わってから手伝いをしていたが、就農して3年目ぐらいで、妻が集荷途中に事故が起きてしまった。全治2か月、全身各所の骨が折れた……。

そうなるといちご栽培を夫の孝之さんがやるほかはない。孝之さんは3週間、仕事を休んでいちご栽培に専念した。そしてこれは一人では絶対に無理だと悟った。そこで孝之さんも4年目からはいちご農家専属となり、以来夫婦で従事し現在に至るという。

 

いちご栽培と、栽培した濃厚な味のいちごをふんだんに使用するカフェ

 

Cafe FRAGARIA(カフェ フラガリア)

 

いちごは出荷先へ卸すほか、直販やCafe FRAGARIA(カフェ フラガリア)で提供されるケーキやパフェの材料ともなっている。

カフェも妻の香歩里さんが経営したいと2年前にオープンし、栽培と両立しながらここまで来た。いちご農家のシーズンは半年である。残りの半年は基本的に苗作りだが、苗作りの時期はフルに1日関わり続ける仕事があまりない。余った時間を利用してその期間にカフェを稼働させて両立している。いちごのデザート、パフェとプレートがカフェの主力商品である。

 

いちごをふんだんに使ったイチゴパフェとイチゴトライフル

野菜たっぷりのランチのプレート

 

有機栽培の農園 FRAGARIA いちごの課題とは

 

平松夫妻の農園FRAGARIAは、17.7アールの広さ。栽培の特徴は有機栽培であることだ。有機肥料のみを使用し、化学肥料は一切使っていない。また、土で高設栽培を行っている農家は少ない。
現在栽培しているいちごの品種はほとんどが「かおり野」である。

 

ビニールハウスで育つ「かおり野」

 

孝之さん:有機栽培のきっかけは、名古屋のオーガニックスーパーからの要請だったんですよ。卸していたスーパーマーケットから有機栽培のいちごが欲しいと言われました。具体的な話をいただいたため有機栽培への挑戦を始めました。最初は収量が全然読めなかったため、一年目は様子見で、ハウスの半分、17.7アールの半分を有機で、あとの半分は化成で1度様子を見ることにしました。すると作られたいちごの味が、有機栽培の方が非常に濃厚に感じられたのです。同じ品種で同じハウスで育成しているのにも関わらずです。そこから有機栽培が現在に続いています。

同じ品種「かおり野」で全然味が違う。平松さんは語る。

 

根張りが違う有機肥料の苗

 

孝之さん:土作り、土と微生物を育てている感じなんです。肥料をまいて、言うなれば餌ですね、微生物の餌を土に入れて、その微生物が食べた糞とかで、土がどんどん変わっていき、土がふかふかになる。そこから苗を植えて栽培してみると、根張りが変わるし良くなるし、栄養をよく吸うイメージ。何よりいちごの味がもう全然違う、これはいいなって。

また、かおり野は味落ちのする品種なのだという。最初の10月の半ばから、年内は味がしっかりしているが、年明けからどんどん下がっていく。農家は味をどう維持していくかという点が課題だが、平松さんたちは有機栽培に変えたところ味が落ちることは無くなった。なお全面的に有機栽培かつ高設栽培を行っている農家はほとんどないそうだ。

当初は有機栽培の知識もゼロだったため三重県の事業「グリーンサポート」を利用し、助言や補助を得た。普及担当の職員もついてくれている。そうして各地に有機栽培の視察に訪れ、様々な気付きを得ることができ、いちごの栽培につなげていった。

 

常連さんと、 FRAGARIAのいちごを求めるプロの菓子職人たち

 

いちご生産のビニールハウス、主たるクライアントには一般のいちご愛好家もいるが、ケーキや和菓子の職人が買い付けに来るケースが多い。いちごのサイズ指定もできるのでプロのニーズに合っているそうだ。一方で、小さい子どものためにいちごの数を多くいただきたい、といった一般向けのニーズにも応えられる点が人気の秘密のようだ。

 

 

ハウスは直売が基本で、予約制になっているが、販売できる数は少ない。有機栽培はそこまで量が取れないのだという。
一方、カフェの客層は多くが女性で、直売等でFRAGARIAのいちごのファンになった常連さんも足繁く訪れてくださるそうだ。

 

いちご農園FRAGARIA そしてCafe FRAGARIA今後の展開

 

地元の津市安濃町について平松孝之さんは、農業をやるにはいい環境ですが、飲食店の展開としては場所の分かりにくさや駐車場など、まだまだ課題は多いと語った。

孝之さん:今後の目標として、現在各所イベント会場などにて行なっている出店の推進が一つ。五十鈴の森クラフトフェアや、F1の際に鈴鹿サーキットにて、土産屋のような形でいちごを販売していましたが、サーキットの時はお客の8割が外国人で、値段も見ずにどんどん売れていくのが驚きでした。これからもどんどん出店していきたい。

 

五十鈴の森クラフトフェアに出店している様子

 

今後のさらなる目標は、有機栽培の更なる確立である。
たとえば使用している液体肥料だが、水を流すホースで与えている。この液体肥料も有機なのでどうしてもチューブが詰まりやすい。あの手この手で解決を図っているが、そういう色々な課題を乗り越えればもっと上手く有機栽培が展開可能なのではないか、と今後も改善策を模索していく。

 

いちごをふんだんに使った香歩里さんのケーキ

 

カフェの方では製菓衛生士の資格も取り、これからも美味しいいちごが豊富なデザートを提供していくつもりだ。

 

 


 

取材協力
Cafe FRAGARIA
〒514-2304 津市安濃町太田784
電話番号: 090-7020-2030

取材:2025年3月18日
文 :後藤宏行
写真:大西康博

※写真一部「Cafe FRAGARIA」提供

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