2021.10.14
旬前耕房ごん豆(ごんず)食べることは体を作ること。地元の農作物と食卓をつなぐ「旬前耕房ごん豆(ごんず)」松井順子さんの物語。
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松阪市は山間地が広がりブランド和牛「松阪牛」の生産が行われるなど、食と自然が豊かな地域。
農作物直売所「旬前耕房ごん豆(ごんず)」がある松阪市嬉野権現前は、田畑が広がり、米や野菜などの生産が盛んな地域だ。
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この土地ならではの農業を続ける
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お話を伺ったのは「旬前耕房ごん豆」を運営する権現前営農組合の松井順子さん。お店の成り立ちを教えてもらった。
松井さん:権現前営農組合は、権現前地域の全34戸の兼業農家が話し合い、農業と農地を守るために平成10年に立ち上げた組織です。地元農業の後継者が減る中、農作物の生産から加工、販売までを一貫して行い、一人でも多くの方に地域の魅力を伝える目的で店はスタートしました。嬉野地域には、オリジナルの大豆と米と大根があるんですよ。
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コンビニエンスストアの跡地を活用した店内には地元で採れた農作物をはじめ、地元のお母さんたちが作るお惣菜やおにぎりが人気。取材時はお昼時とあって、ご近所さんやサラリーマンなど、惣菜を買い求めるお客さんが続々と入店。
お店には他にも、嬉野産の豆腐、和菓子や三重県内の加工食品、地元産の生花、地元大工さんが作ったまな板、地元農家さんお手製の布ぞうりなども並ぶ。
![▲地元農家さんお手製の布ぞうり](https://www.sato.pref.mie.lg.jp/wp/wp-content/uploads/2021/10/E6C795EA-2E41-49D8-A655-2F8A2815D3E0.jpeg)
▲地元農家さんお手製の布ぞうり
大豆は「嬉野大豆」という名でお隣津市美里町の在来種、美里在来を改良したもの。美里在来は栽培に手間がかかり、収穫量はわずかだった。そこで、三重大学と共同研究を行い12年の歳月をかけて育てやすい品種を選び改良したのが「嬉野大豆」だ。
![▲嬉野大豆が入ったひじきの煮豆](https://www.sato.pref.mie.lg.jp/wp/wp-content/uploads/2021/10/614E4646-165D-4DE0-ADE2-A7225AC58B3A.jpeg)
▲嬉野大豆が入ったひじきの煮豆
松井さん:嬉野大豆は糖度が高く、大豆本来の甘味が感じられます。また大きさもフクユタカなど一般的な品種の1.3倍もあるので調理をしても存在感があります。ここで販売している嬉野の野瀬商店さんの豆腐の原料や、お惣菜の煮豆の材料にもなっていてお客さんからも高評価です。
![▲野瀬商店さんの嬉野豆腐](https://www.sato.pref.mie.lg.jp/wp/wp-content/uploads/2021/10/559A4C1E-8D46-4DD3-8B46-9F62F80F7671.jpeg)
▲野瀬商店さんの嬉野豆腐
嬉野で作られるブランド米「権現米」の品種はコシヒカリで、もちっとしていて冷めても美味しいのが特徴。松阪牛の完熟堆肥を用いて育てる地域の独自性がある農法だ。また、収穫後にでる権現米の稲ワラは、松阪牛の餌にするなど堆肥と稲ワラを地域内で資源循環させる農業を展開している。
地元のものを食卓に
松井さんは、生産者と食べる人の間に立ち、店を運営するときに気を付けていることがあるという。
![▲生産者の紹介パネル](https://www.sato.pref.mie.lg.jp/wp/wp-content/uploads/2021/10/D71A5B64-1438-4A56-A6F2-4B5E7DF89B89.jpeg)
▲生産者の紹介パネル
松井さん:生産者さんから仕入れる際には私自身も足を運んで、直接お話を聞くようにしています。農作物が育つ背景にある「どんな人がどんな想いで作ったのか」ということを伝えたいと思っているので。お店を通じて、生産者と食卓をつなぐ役割を担えたらいいなと思っています。「地元のものを食卓に」がモットーです。
実際に店の近隣にも米や大豆が育っている。恵まれた自然の中に店があり、出荷にきた生産者さんに会うこともできる。管理栄養士の資格を持つ松井さんは話を続けた。
松井さん:食べることは心や体を作ること。そのような基本を感じられるお店、ほっとする場所にしたいです。地元のものを食べることが大事だと思っている人は多いけれど、実際に忙しい暮らしではなかなか実現できない。家庭で料理する人も、逆に料理をしない人にも、地元で採ったものを食材として、またお惣菜として気軽に購入してもらえるのが、この店の特徴なんです。
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![▲油あげに野菜がたっぷり入った人気のお惣菜「あげきんちゃく」](https://www.sato.pref.mie.lg.jp/wp/wp-content/uploads/2021/10/B0F1CC43-E5E9-4A21-8D99-F1B5E8F0875B.jpeg)
▲油あげに野菜がたっぷり入った人気のお惣菜「あげきんちゃく」
この地域で育てられている作物や加工品など、地元であっても知られていないものが沢山ある。店で売られている農作物は販売している惣菜の食材になっているのだが、認知されていないこともあるという。そこで松井さんは、毎月1回、店で販売している地元食材をふんだんに使った「うれっぴー弁当」の監修を行うことで、地元食材や地域の産業を知ってもらう活動も始めた。
![▲うれっぴー弁当 2021年9月のテーマは『新米うれっぴー 〜田んぼから食卓へ〜』](https://www.sato.pref.mie.lg.jp/wp/wp-content/uploads/2021/10/02EEBE59-C184-425B-95D7-B298505D655B.jpeg)
▲うれっぴー弁当 2021年9月のテーマは『新米うれっぴー 〜田んぼから食卓へ〜』
松井さん:来月の「うれっぴー弁当」に「いまお店で売っている、あの惣菜は入ってる?」と聞かれることがあります。でも食材には旬があり、スーパーのようにいつもあるのが当たり前ではないので「この地域の旬を味わってください」とお話しています。
食への想いを次の世代へ
次々と新たな取り組みを行う「旬前耕房ごん豆」では、2021年から嬉野中学校の地域活動部を受け入れ、生徒へ農業体験を通じて、地域の食の学びの場を設けている。
![▲嬉野中学校 地域活動部の農業体験の様子](https://www.sato.pref.mie.lg.jp/wp/wp-content/uploads/2021/10/0EA05860-6CE6-4A77-99D5-51DEBE66E481.jpeg)
▲嬉野中学校 地域活動部の農業体験の様子
松井さん:農業体験と言っても種蒔きと収穫だけでなく、栽培過程での除草作業やお店での販売まで生産から一貫して体験してもらっています。そうすることで、生徒たちは自主的に販売用のポスターを作ったり、お客さんへ声掛けもするようになりました。
![▲嬉野大豆に成熟する前の枝豆](https://www.sato.pref.mie.lg.jp/wp/wp-content/uploads/2021/10/A7D3D26F-223C-4BDA-A824-C9B456AAE6BB.jpeg)
▲嬉野大豆に成熟する前の枝豆
枝豆作りを体験した生徒からは「枝豆が成熟して大豆になるとは知らなかった」「農家さんの大変さが分かった」などの感想が寄せられた。生産の現場を知らずとも食べ物が簡単に手に入る現代、若い人が農業に関わり手間暇かけて作物を育てることは、フードロスなどの課題解決に取組むうえで大きな意義があると感じた。また、生産者の方にとって農業に関わる新たな人との出会いや、自分の作った作物を食べる人の表情が見えることは、生産を続ける励みになるのだと思う。
最後に松井さんへ、今後の展望を伺った。
松井さん:私も子どもを育てる母として加工食品を買う時に「体に良いのだろうか」とか「なぜこんなに安く売られているのか」など、後ろめたさや疑問を感じることもありました。でも「地元の食材を使って手作りしている、ここのお惣菜なら買って食べてみたい」と思っていただけるようになったらいいですね。これからは、暮らしに身近なところから「食育」にも繋げていきたいです。
最近では、インスタグラムでの情報発信も始め、その影響で子育て世代の若い人が来店するなど、今までの客層とは異なる世代にも松井さんの想いは響き始めている。
食から伝わる人の温もり
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取材を終えたのは昼過ぎで、来店客数も落ち着きはじめていた。惣菜コーナーでおにぎりを注文した。オーダーしてから握ってくれるおにぎりを帰りの車内でいただいたが、お店のお母さんが手で握ったふんわりとした食感、程よい塩味が権現米の甘味をさらに引き立てて美味しかった。
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生産者の方、おにぎりをにぎる人、販売する人などの想いを米の一粒ひと粒に感じながら食べたおにぎりからは人の温かさが伝わり、口福感を覚えたのでした。
取材協力
旬前耕房ごん豆
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取材:2021年9月20日
文:WEBマガジンOTONAMIE canny
写真:松原 豊