2021.11.01

株式会社 七転八倒

「いきつけの田舎」を目指して!田舎の当たり前を魅力的なコンテンツにデザインする会社「七転八倒」福持久郎さんと大地真理子さんの物語。

四方を山で囲まれた伊賀市は、古琵琶湖地層に由来する豊かな土壌、そして美しい水に恵まれた農業の盛んな地域。そんな伊賀の山間部で「田舎をデザインする会社・七転八倒」を仲間6名で立ち上げた代表の福持久郎さんと、副代表の大地真理子さんにお話しを伺った。

何もないから何でもできる

千葉県出身、東京で広告会社に勤め、海外生活の経験もある大地さん。海外滞在体験先のカナダで出会ったご主人の実家がある伊賀市広瀬地区に移住することになったのは約10年前。

大地さん:何でもある都会から、何もない田舎へ来て、知り合いもいない。そりゃ最初はふてくされる日々でした。夜、飲みに行けるお店もなくて、家でワイン1本とか空けたりしてました。

そんな時、地域で長年農業を営み、世話役をしてきた福持久郎さんをはじめ、「田舎に楽しみを創りたい」という思いを持った仲間4人と出会った。

 

大地さん:みんなは、農業、林業、さまざまなジャンルのプロたち。みんなと話していくうちに、何もないから何でもできる!そんな発想に変わりました。田舎にきて、消費に慣れきっていた自分に気づき、自然のなかに身を置いたとき、自分で何かを創り出せる時間を持ちたいと思いました。

地域全体をどうにかしようというのではなく、自分たちがワクワク楽しく何かやっている姿を見せていくことが地域の刺激になると、ひとり50万円ずつ出資し2018年「七転八倒」を設立した。社名には、こんな思いが詰まっている。

福持さん:最初周囲からは「何考えとんねん!」と、言われましたし、自分でもできるんかいな、思いました。何回こけても起きよう、一次産業を起こしたろう!そんな想いと、インパクトを狙ってつけました。 

 

 

週末田舎人の遊び

設立から4年、そのうち2年はコロナ禍で思うように動けないことも多いなか、「田舎に楽しさを創る」ことをテーマに、 田舎の当たり前を魅力的なコンテンツに変える取り組みを続けた。

農業・林業体験、民泊、ワークショップ、無人野菜販売所の設置、結婚式、古民家再生レストランなど。文字にすると既存感が否めないが、大地さんたちは思わず利用したくなる魅せ方にこだわっている。

大地さん:ただ農業体験というのではなく、「おむスタ」という、おむすびを食べている姿をインスタにあげてもらうイベントにして、お米に興味を持ってもらうきっかけづくりをしたり、広い田んぼの世話はできないけど、少しだけ自分の田んぼを持ちたい人のために「田わけもの」という分割制の田んぼオーナー制度も好評です。

「田わけもの」は、3反の田んぼを7分割し、各オーナーが3アールの水田で米作りをするもの。3月の田おこしからはじまり、田植え、溝切り、草刈り、稲刈りまで1年を通して通いながら農業体験できる。

大地さん:何十年も地域で米作りをしてきたプロがサポートしますし、農機もここにあるものを利用してもらえます。だいたい150キロの収穫ができます。田んぼの横にBBQができるスペースもご用意しています。私も自分が作ったお米を初めて食べたとき、本当に美味しくて感動しました。そんな体験をしてもらいたい。農業体験は食育にもつながるので家族で参加して欲しい。

福持さん:家業の農地を継ぐような人も利用してくれています。農機の練習、田植えの練習をここでして、自分ところの広い田んぼをやる。そういう意味では、草刈りやチェーンソー講習のニーズもあります。

宿泊利用はAirbnbよりネット予約が可能(一泊 3,388円~)

民泊も運営する。広瀬地区の隣り、川北地区にある福持さんの自宅には3年間で10組が宿泊利用した。外国人の利用者もあると言う。

福持さん:こちらが出かけて行かなくても、来てくれるのがええ。大根1本ひいただけでも喜んでくれる。田舎にいて、異文化にふれられるのはわたしらにとっても刺激がある。英語はできんけど、通じるもんがある。

 

古民家レストラン&バーも開店

現在、2021年11月の開店を目指し、もともとは大地さんのご主人の実家だった建物を改築した古民家レストランを準備中。敷地内には、バーやコワーキングスペース、さらにはシャワー室、薪で炊く五右衛門風呂も作っている。自分たちでできるところはDIYもする。

大地さん:農業体験やワークショップでここを訪れた人たちが利用できる施設を少しずつ増やしています。レストランで使うために野菜の栽培もはじめましたが、店より野菜のほうが先に出来たので無人野菜販売所のオープンが先になりました。

大地さんたちの無人野菜販売所には大きな文字で「で!!」「あっ!!」と書かれた看板が掲げられている。「で!!」の文字は、大地さんたちの事業の関連性や継続性を表現しているそうで、「古民家レストランをオープンするので、この畑の野菜を使います、旬の野菜が収穫できたので、先行販売致します、売り上げは子供たちの未来につながって欲しいので、野菜の販売利益は生活に困窮している子供たちへ寄付します」などの想いが込められている。「で!!」だけではスペースが足りなくなり、後に設置した「あっ!!」には深い意味は無く、一文字で雰囲気を揃えた。文字のインパクトで足をとめて野菜を買ってくれる人も多いと言う。

無人野菜販売所。1袋100円(おひとり様2袋まで)。大地さんたちの想いが書かれた貼り紙が中にあるのでぜひのぞいてみて。

 

福持さん:この辺の荒れ放題の山で間伐体験をしてもらい、そこで出た間伐材を薪として使う。薪割りや風呂炊きも体験として楽しんでもらいながら、地域貢献や連携をする。地域で何かをするとき、必ず地元の職人さんにお願いするし、ワークショップも地元の方に講師をお願いし、地域全体でコミュニケーションをとる仕掛けも意識しています。

間伐材を薪として利用する五右衛門風呂。田舎ならではの非日常体験ができる。

 

都会と田舎をつなぐ人

大地さん:田舎の日常は、都会の人にとっては非日常。切り取り方ひとつで魅力的に発信できると思う。最終的には、このあたり一帯を田舎ならではの経験を楽しんでもらえる自然のアミューズメントパークのような場所にしたい。

週末田舎人(商標登録済)というのは、土日に限ったことではなく、その人にとっての週末に田舎を訪れて欲しいと言う思いが込められているという。実家や親せきの家とは違う「いきつけの田舎」は、ちょうどいい気楽さと人とのふれあい、そして都会ではできない体験ができる場所。インターネットやSNSによって、個人ではなかなかたどりつけなかったニッチな場所や取り組みにも辿りつける時代。その先にはバーチャルではなく本物の体験や人とのつながり、顔が見える安心感がある。

 


 

取材協力
七転八倒

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TEL 090-7046-5595(福持)
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取材:2021年10月12日
文:WEBマガジンOTONAMIE ライター 神崎千春
写真:加藤雅之

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