2024.03.21

大紀町日本一のふるさと村

きっかけは、親の介護から。村と世界をつないで町を盛り上げる 民宿「大紀町日本一のふるさと村」瀬古さんの物語。

きっかけは家で親の介護をしながらできること

 

のどかな田舎にある民宿

 

田畑や茶畑が広がり、清流に癒される美しい山里。
到着したのは、農家の暮らしを体験ができる民宿「大紀町日本一のふるさと村」だ。
自然の中に佇む築80年の趣のある古民家。
伺うのは2回目となるが、向かう道中は実家へ帰るようなワクワクした気持ちになった。
あの時(前回)と変わらない温かい瀬古さんご夫婦が迎えてくれる。

平成22年、それまでは名古屋に住んでいたが、母親の介護をきっかけに故郷の大紀町へ移り住むことに。車いすでの暮らしに対応するため、バリアフリーの家を建て、新たな暮らしがスタートした。

今までを振り返る瀬古さん

 

瀬古さん:その頃から家で親を見ながら何かできないかと考えるようになりました。母屋が空いていたこと、ちょうど三重県が民宿を支援する事業を行なっていたこと、村では耕作放棄地が増えていたことから、いなかが体験できる民宿をはじめたいと思うようになりました。

さまざまなきっかけが瀬古さんの背中を押すように動き始める。
当時、そのような民宿をはじめることは、町で第一号だったという瀬古さん。手続きや周知の方法など手探りではじめていった。

瀬古さん:観光地でもないのにつぶれちまうだろう・・・と言われることもありましたね。同時にNPO法人を立ち上げ、全国に会員を作り、輪を広げました。その方たちがサポーターとなり、全国から泊まりに来てくれたりと、サポーターさんの応援のおかげもあって今があります。

毎年自分たちで育てたお米を全国の1000人のサポーターに送っているという瀬古さん。
“今年も美味しいお米ができました。おいしいかまどご飯を食べにきてくださいね”という言葉を添えて田舎から全国へ。毎年ふるさとの味を届け、懐かしく思ってもらう。第二の故郷のような存在になっているに違いない。

 

農家の暮らしをのんびり体験できる1組1棟貸切の民宿

 

どこか落ち着く古民家の棟

一棟、広々使える別館

キッチンで自由に自炊もできる

 

のんびりいなか暮らしを体験してほしいと1組1棟貸切。
泊まれる場所は3棟、2-3人向けのえんがわサロン、3-5人向けの古民家、5-10人の別館。
1人の利用から団体まで、それぞれ目的によって宿泊を楽しむことができる。

 

玄関までスロープや手すりも

 

瀬古さん:町では子どもたちの数もずいぶん減ってきましたね。だからこそ、海外の子どもたちや障がいのある子どもたちも、誰もが気軽に遊びに来られる居場所を作りたいんです。

 

バリアフリー仕様のトイレ

 

車いす対応のトイレやベッドルームなど高齢者や障がいのある方も利用しやすいバリアフリー仕様の棟も。別棟の母屋には車いすでも利用できるお風呂もある。NPO法人としての活動の一環でもあるため、必要に応じサポートしてくれるボランティアもいるという。病気の方や障がいのある方でも、可能な限り受け入れる体制が整えられているのも、設立当時の親の介護の経験が活かされている。

 

目の前の畑へ案内してくれる瀬古さん

 

瀬古さん:畑も行きますか?

と案内してくれたのは、歩いてすぐにある季節の野菜を育てている畑。

 

季節の野菜の収穫体験ができる

 

宿泊者は畑の収穫体験ができ、田舎の暮らしを体験することができるのも、楽しみの一つとなっている。

 

薪割りから体験できる、かまどご飯

 

炊き立てのご飯は絶品

 

ご主人に教わりながら薪を割り、釜戸でご飯を炊くといった、貴重な体験も。

松阪牛が存分に味わえる料理体験

瀬古さんと一緒に作る松阪牛のすき焼き

みんなで鍋を囲める大きなダイニングテーブル

 

自分たちで収穫をしたり、調理をして味わう松阪牛のすき焼きは絶品だ。ご夫婦との会話も弾む。

好きなように過ごしてもらうために、宿泊者には「ふるさと村でやりたいこと」を事前にアンケート。オプショナルプランのコーディネイトもしてくれる。もちろん何もしたくない、という選択肢もある。

「いつも親戚の子が遊びに来た気持ちで接しています」と微笑むご夫婦の温かさに、リピーターが多いのも納得だ。

 

4割が外国人。世界中から訪れる宿。

 

海外のインフルエンサーが宿泊してから、外国人向けサイトの「松阪牛すき焼き体験プラン」の宿泊予約が急増。
この地は熊野古道ツヅラト峠へ行く登山客たちにアクセスの良い場所であることもあり、
たちまちその魅力が広がり、今では4割近くが外国人だという。

 

地域から譲り受けた着物などを大切に活かしている

 

瀬古さん:山の水を汲みに行ったり、野菜を収穫したり、かまどご飯を一緒に作ったり、げんこつ飴やないしょ餅を作ったり、着物に着替えたり・・・あっ、今度タイの学生さんたちと箸や箸袋を作りますよ。

そのレパートリーの豊富さに驚くが、日本文化、いや、この地を生かして人を楽しませたいという瀬古さんの思いが溢れている。インフルエンサーの影響をきっかけに、訪れた外国人の方自身がここで感動した体験を広め、また輪が広まっているのだろう。

 

コロナ禍を乗り越えて生まれた絆

 

季節の野菜を届ける「ふるさと便」

 

コロナ禍は、2年間休業して、特に大変だったと振り返る瀬古さん。みんなも同じく大変な思いをしている。と国からの持続化給付金で、全国のサポーターさん750人に畑で採れた野菜やお米を無料で送ったという。

 

喜ぶ顔を思い浮かべながら収穫する瀬古さん

 

瀬古さん:みなさんとても感動してくれて、それがまた私たちの支えになりました。この野菜が入っていたら喜ぶかしらと、届いた方の顔を想像するのが楽しいですね。

その取り組みがきっかけでスタートした「ふるさと便・パンセット」。自宅にいながら、ふるさと村を体験できると好評だ。中身は、畑で採れた旬の野菜や玄米みそなど、手に取る方を思い浮かべて、内容を考えているという。

 

特許を所得した玄米パン

 

特許を取得したパンは「玄米入り」へと進化。同じく玄米を使った味噌やみたらし、お茶など、さまざまな商品を開発している。「釜戸炊き玄米ごはんパン」は、今は、ふるさと便やvisonで購入可能だ。

 

地域とも深く、世界へつなぐ

 

宿泊者との思い出を振り返る瀬古さん

 

ふるさと村では宿泊客だけでなく、地域の人が集まれる場所として子ども食堂の運営も行っている。地元の子どもたちが集まり、流しそうめんをはじめ、田舎ならではの暮らしを体験できる催しを開催。地域の高齢者の方へお弁当を届ける取り組みでは、見守りの役割も担っている。
ここが地域の拠点となり、また地域と世界をつなぐ拠点にもなっているのだ。

瀬古さん:この町は、農業も漁業も林業もある町ですから、今後は山村留学にも取り組みたいなと思っています。外国の方がこんなにたくさん訪れる町も珍しいと思うので、交流を楽しんだり、子どもたちの「やりたいことがやれる村」。そんな町をつくって盛り上げたいですね。

民宿を営みながら、さらにその先の夢を追い続ける瀬古さん。
ひとつひとつ夢が形になっている頼もしい民宿だ。

 


 

取材協力

「大紀町日本一のふるさと村」
〒519-2733 度会郡大紀町金輪974-2
電話番号:0598-87-1500
HP: https://taiki-bm.wixsite.com/furusatomura

取材日:2024年2月14日
文・写真:ライター 吉川優実

 

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