2022.03.21

かげやんのいえ

みんなでワクワクする開拓を!農業体験民宿「かげやんのいえ」の中村浩美さん・和弘さんの物語。

一級水系の雲出川(くもずがわ)の上地流に位置する津市美杉町。全域が赤目一志峡県立自然公園に含まれており、西部には室生赤目青山国定公園内にある、標高1000m内外の大洞山、尼ヶ岳がそびえる。スギ・ヒノキの造林が盛んに行われ、町の面積のほとんどが森林であるこの地域は、東海圏で初となる森林セラピー基地として認定されている。また2014年に公開された、林業がテーマの「WOOD JOB!〜神去なあなあ日常〜」のロケ地にもなった。


そんな美杉の里山で農業体験民宿「かげやんのいえ」を運営している、中村浩美さんと夫の和弘さんにお話を伺った。

 

綺麗な自然と家を残したい

浩美さん:ここは元々主人の実家で、主人の家族は美杉もこの家も大好きだったんです。母が高齢で私たちが暮らす市街地に近い地域に一緒に住むようになり、誰も住まなくなった家は、次第に荒廃が進んでいきました。なんとか残したいという想いは前からあったのですが、実際に朽ちていく様子を見て、家と周辺の自然を無くしたくない、継承したいという想いが込み上げて来たんです。

宿名にもなっている「かげやん」とは、和弘さんの父の愛称。「かげやん」が愛した場所の魅力を多くの旅行者に知って欲しいという浩美さんの想いがこもっている。浩美さんは「Inaka Tourism推進協議会」のメンバーの一人。「Inaka Tourism」とは美杉町がもつ自然、歴史、人などの資源を観光事業(ツーリズム)とつなぎ、町を活性化していこうという試み。メンバーは皆、美杉の持つすばらしい資源を多くの人に知ってもらいたいという熱い想いを持っている人たちばかり。浩美さんのように古民家を活用して民宿をはじめた方も増えている。

 

浩美さん:民宿をオープンするにあたっては、たくさんの方に出会いお話を聞き、民宿を始める心構えなどを教えてもらいました。また農村漁村で起業するノウハウを学ぶため、県が主催する「農村漁村起業者育成講座」にも参加し、「都会のニーズの捉え方」、「地域資源の活し方」等を学び、美杉の様々な場所を探検しました。

2019年の4月に民宿として登録し、7月にはオープンしてお客さんを迎えた。

猿がたくさん出没することから、猿をモチーフに美杉の日本料理「朔」の沓沢佐知子さんにロゴをデザインしてもらったオシャレな看板。

窓から森林を望むワーケションにも適した部屋。

屋外でミーティングなどができる庭。

目の前に滝を望むテラス席では森林浴も楽しめる。

主人である和弘さんは民宿の開業をどう思っていたのだろうか。

和弘さん:最初僕は反対やったんです。自分の地元やけど、何にもないこんな田舎に誰が来るんやって思ってました。

しかし実際にオープンすると国外からは中国やフランスなどから、国内では大学のゼミのサークル、同窓会、ワーケーション、家族で農作業体験など様々なお客さんが訪れたという。

フランスから訪れたお客さんと一緒にタコ焼き作りを楽しむ。

農業体験で芋掘りを楽しむご家族。

浩美さん:民宿をやっているとたくさんの出会いがあり、喜んでもらえる姿を見ると嬉しくなります。何をしたら喜んでもらえるやろ、どうやって美杉の魅力を知ってもらおうかと考えるのが楽しいです。

和弘さん:自分では、何もないと思っていた田舎にもいろんなお客さんが来るんやなぁーとびっくりしました。そして同時に嬉しく思いました。

最初は反対だった和弘さんも、週末の休みの日には浩美さんと一緒に未経験だった畑や庭木の手入れなど手伝ってくれるようになった。

 

新たな発見にワクワクする毎日

浩美さん:ここにはしょっちゅう来ていますが、新しい発見ばっかりです。こんなところにこんな魅力があったんだってことに、心がワクワクして嬉しいです。日が暮れてくる時には、帰りたくない気持ちになりますね。


原木椎茸の栽培に挑戦したり、野いちごがあったりと発見がたくさんあるという。

浩美さん:農作業も元々やってたわけじゃなく素人なので、地域の方に教えてもらいながらやっています。

浩美さんの畑は糠などの有機肥料を与えながら、除草剤を一切使わない無農薬栽培。田んぼは無農薬・無肥料で大洞川から流れる栄養豊富な水のみで育てられている。雑草や害虫の処理は大変だが、それよりも安全安心なものを育てたいという想いがあるという。

テラス席にある薪ストーブで浩美さんが育てたサツマイモを焼いていただいた。とろけるような食感と自然な甘み、冬に外で食べる焼き芋は格別だ。

浩美さん:美杉に来たら本当に元気になると感じます。不思議と畑仕事などの労働で疲れているけど、自然に触れているせいか、家に帰っても体が軽くなった気がするんです。

自然のなかで体を動かし時間を過ごす。それは人間が生き物として、本能的に求めていることなのかも知れない。

 

みんなで開拓!創り出す楽しみを

浩美さん:先祖さんが昔田んぼをしていたところが耕作放棄地になっていたので、整備して一部を復活させたんです。最初は草刈りをして、そこからはスコップひとつで全部を耕しました。ほとんど1人でしたので少しづつでしたが、田植えをして米ができた時は嬉しかったです。「できるもんやな」って(笑)

耕作放棄地を草刈りするところから始める。

スコップ1つで地面を耕す様子。

泥の中足を取られながらも、田植えをする。

まるで緑の絨毯のように、新緑色にのびのびと育った稲。

綺麗な黄金色に実った稲を、丁寧に刈り取っていく。

田んぼも耕作放棄地を全部を田にするのではなく、ご自身で楽しめる範囲内で行うと浩美さんはいう。

浩美さん:体にいいものを、少しずつでも作っていきたいですね。

続いて新たに開拓している裏庭を案内していただいた。

険しい道を慣れた様子で降りていく中村夫妻。

浩美さん:この険しい道を切り開いて行くのも、サバイバルみたいですごく楽しいんです。川はゴミだらけになっていて、下って登ってを繰り返して綺麗にしたんです。

子供達が楽しめるように謎解きボックスが道中に設置されている。

浩美さん:これからは宿泊しに来てくれた方などと一緒に民宿を拠点にして、裏庭や耕作放棄地もどんどん開拓していけたら楽しいなと思います。宿泊施設側がなんでも用意するのではなく、来てもらった方が「これをやったら楽しそう!」と発見し、自分たちで考えて創り出していく喜びがあることを知ってもらいたいです。美杉でこんにゃくやジャム作りをする方や、近隣のお弁当屋さんとコラボし、一日ゆっくりと楽しめるツアーなどもしていきたいです。

綺麗な美杉の風景を愛し、様々なことにチャレンジし続けている浩美さんは、いつも新しい発見に心をときめかせている少年少女のような心もちで、目をキラキラと輝かせている。そんな楽しみを発見する開拓的なワクワク感が派生していけば、地域はさらに楽しくなっていくと感じた。


 

取材協力
「かげやんのいえ KAGEYAN NOIE」
〒515-3421 三重県津市美杉町八知8253
電話番号:059-271-8337
HP:https://www.sato.pref.mie.lg.jp/facility_single/?id=45
Instagram:https://www.instagram.com/hiromi_nakamura_24/?igshid=52jhllsdwmth

取材:2022年2月7日
文:WEBマガジンOTONAMIEライター 大下航平
写真:松原 豊

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