2026.03.13
宿泊・食事・喫茶 奥松阪デザイナーとして培った経験を 中山間地域の発展に活かす! オーナーの高杉亮さんの物語。
豊かな自然と調和する「おしゃれでおいしいお店」
「何気ない日常に幸せを」をコンセプトに築120年の古民家を改装して2022年にオープンした「宿泊・食事・喫茶 奥松阪」。食事処や宿泊施設として利用でき、骨董品の販売も行っている。そのサービスの質の高さが注目を集め、自然豊かな松阪市飯高町の人気スポットに。
店内には、カウンター席と、1~2人向けのテーブル席に加え、家族やグループで使いやすい座敷も用意。座敷のある和室には宿泊もでき、宿泊用の別棟も2024年にオープンした。柔軟なアイデアで、中山間地域の発展に貢献するオーナーの高杉亮さんに話を伺った。

穏やかな語り口で地域への思いを語る高杉さん
元々、名古屋を拠点に、広告のグラフィックデザイン、Webサイトの企画・制作、写真撮影、フードデザインなど、幅広い分野の仕事に携わっていた高杉さん。東日本大震災をきっかけに、自身の人生や働き方を見つめ直し、独立してデザイン会社を設立した。

四季の彩りが生活に寄り添う「松阪市飯高町」
高杉さん:転機となったのは、2014年に仕事で松阪市を訪れた時の出来事です。市街地から離れた飯高町には豊かな自然が広がり、その風景と穏やかに流れる時間に魅了されました。妻が松阪市出身で、親近感があったこともあり、思い切って空き家の購入を決めました。
飯高町の魅力を活かした「奥松阪プロジェクト」
お菓子の製造免許を取得し、購入した古民家を「農産物の加工などを行う“食のアトリエ”」にリノベーション。その過程をSNSで発信していたところ、松阪市役所から「地域おこし協力隊としてまちを盛り上げてほしい」というオファーが届いた。

農産物の加工場として購入した古民家
高杉さん:市役所の職員さんの熱意に心を動かされ、地域おこし協力隊への参加と移住を決意しました。デザイナーとして年齢の壁を感じ始めていたこともあり、いつかは田舎に移住しようと考えていました。そうした中で、ありがたいお話をいただき、「40代にさしかかる今が良いタイミングかも」と。自分の意志だけで物事を決断するのではなく、流れに身を任せる生き方も自分らしいと思っています。

懐かしさと新しさが交わるお店「奥松阪」
地域おこし協力隊の一員として、さまざまな地域活動を続ける中で、将来のプランの一つだった「飲食店」にぴったりの物件と出会うことに!
高杉さん:ロケーションが良く、建物の造りにも独特の風情があったので、この古民家が飲食店になったら、魅力的になると思いました。「ここを飲食店にして、このまちを盛り上げたい」という話を大家さんに持ちかけたら、快く売っていただけることになりました。

木の温もりと洗練されたデザインが調和する空間
外観や内装、インテリア、食事メニューなど、すべての要素にこだわりを詰め込み、2023年1月に「宿泊・食事・奥松阪」をオープン。店名には高杉さんの思いが垣間見える。
高杉さん:飯高町と隣の飯南町は現在「松阪市」ですが、元々はそれぞれ独立した町でした。今後合併が進んだ時に、距離の離れた市街地と分断されずに、地域が一体となる名前を考え、それが「奥松阪」でした。わかりやすくて、気に入っています。

ゆっくりランチやカフェタイムを過ごせる座敷
テーブル席のあるスペースの奥には「座敷」があり、小さな子どもがいる家族や落ち着いて食事を楽しみたいグループに好評。座敷のある和室は宿泊可能で、飯高町のまちの雰囲気を堪能しながら、宿泊したいという方にはおすすめ。
ここでしか食べられない「贅沢ランチ」
食事メニューの中で人気なので、地元食材をふんだんに使用した「週替わりランチ」。彩り豊かで、ボリューム満点。そして、リーズナブルなので、このメニューを目当てに多くのお客さんが「奥松阪」を訪れる。

彩り豊かな「週替わりランチ」1,350円(税込)
写真のメイン料理は、暑い時期に好評の「みえ錦爽とりの酔鶏(ツイチー)」。肉質の良い錦爽とりに低温でじっくり火を入れて、紹興酒と日本酒を使い、しっとり食感に仕上げている。
高杉さん:「奥松阪」のメニューはすべて私が考案し、地元食材の素材の良さを活かすことを大切にしています。以前勤めていた名古屋の食品会社で培った知識や経験を活かして、フードデザインの仕事やカフェの経営にも携わってきました。そこで得た専門性や現場での経験は「奥松阪」をつくりあげる過程にも活かされています。

「週替わりランチ」はバリエーション豊富
この写真のメインは、松阪極豚(きわみぶた)を使ったメンチカツ。柔らかさとジューシーさを兼ね備えた松阪極豚を粗めのミンチにした逸品。多気町で育てられたキャベツの甘みと極豚の旨味の相性が抜群。
高杉さん:「週替わりランチ」はアジアンテイストの料理を定食風に提供しています。こだわりは、食べ応えのあるメインと、素材を活かした副菜のバランス。幅広い世代の方が楽しめることを前提にしながら、自分自身が食べたい料理を取り入れることもあります。

季節ごとに限定のスイーツを販売
カフェタイムには、スイーツがおすすめ。ケーキやシュークリーム、プリンなど、定番メニューから、「愛玉子」(オーギョーチィ/天然ゼリー)や「豆花」(トウファ/豆腐プリン)などの台湾スイーツまで、種類豊富。
高杉さん:試作をして、気に入るといきなり店頭に並ぶこともあります。時期ごとに店頭に並ぶ商品は変わりますが、コーヒーと一緒に楽しんでもらえたらうれしいです。
こだわりの「骨董品」と「新しい宿泊施設」
「奥松阪」の入口の右手には、食器や日用雑貨が置かれた「骨董品コーナー」があり、小さなギャラリーを訪れたかのような楽しさを味わえる空間となっている。

骨董品のディスプレイにもセンスが光る
日々の生活に取り入れやすい小鉢や平皿から、おちょこ、急須までが揃い、古民家の
趣と調和するように、高杉さん自らセレクトした品々が存在感を放っている。リーズナブルに購入できるので、お土産にもぴったり。

最大5名まで利用できる宿泊施設「Stay奥松阪」
2024年にオープンした一棟貸しの宿泊施設、「Stay奥松阪」。外観は木の温もりを感じることができるデザインで、室内は広々としたリビングルームや、キッチン、快適なベットを備えている。
高杉さん:都会の喧騒から離れ、自然の中でリラックスしたい方には理想的な宿泊施設だと思います。近くにある「珍布峠(めずらしとうげ)」には、アップダウンが少ない1〜2kmのウォーキングコースがあり、四季折々の風景を楽しめます。櫛田川も絶景スポットです!

櫛田川とその支流に沿って広がる「香肌峡」
地域のつながりとともに夢も広がる!
現在は、会社経営のほかにも、松阪市香肌地域づくり協同組合の理事長を務め、空き家バンクの管理も行うなど、地域で仕事や住まいを確保できる仕組みの整備にも尽力。協力隊の任期後は、松阪市の「地域プロジェクトマネージャー」にも就任し、まちの新しい魅力づくりも行っている。
高杉さん:さまざまな活動を通して、地域の方々とのつながりが生まれ、地域の魅力や課題に気づくことができました。その中で、自分が今「できること」「やるべきこと」が少しずつ明確になってきたと感じています。

ずっと温めていた「農業プロジェクト」もスタート
また、以前から「田んぼづくり」を教わっていた農業普及指導の専門家が入社したことで、農業に関するプロジェクトも本格的に指導。田んぼづくり体験や、ビール工場の立ち上げ準備のための大麦とホップのテスト栽培も行った。
高杉さん:「奥松阪」という場所をつくったからこそできた活動がたくさんあります。「新しいまちづくりの中で自分たちは具体的に何ができるか」を今後も考えながら、地域の方々とともに活動していきたいと思います。移住してからのこの数年は大変なことも多く、正直「楽しかった」とは言えません(笑)。その分、何かをやり遂げた時の喜びは大きいし、地域の皆さんと試行錯誤しながら、この地域がより良くなる過程に関われることにはとてもやりがいを感じています。
「奥松阪」の駐車場には県外ナンバーの車が複数あり、その人気が広がっていることが伺える。着実に実を結ぶ高杉さんの地域への思いや柔軟な発想。これからの新しいプロジェクトからも目が離せない。
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取材協力
宿泊・食事・喫茶 奥松阪
〒515-1502 松阪市飯高町宮前791
電話番号 070-9069-4104
Instagram:https://www.instagram.com/okumatsusaka/
取材:2026年1月27日
文 :新開康介
写真:亀田悟
※写真一部:「宿泊・食事・喫茶 奥松阪」「三重フォトギャラリー」「大谷嘉兵衛の会」提供

