2024.03.21

ゲストハウスイロンゴ

フィリピンで見つけた地域活性化への道すじ。多文化の風を吹き込んで、生まれ育った白山町の町に活気を取り戻す「ゲストハウスイロンゴ」倉田麻里さんの物語。

 

 

“ペットと泊まれる多文化体験宿”という謳い文句でユニークな活動を行っている「ゲストハウスイロンゴ」。フィリピンネグロス島で植林活動に携わっていた倉田麻里さんが現地で知り合ったフランシスコハロルドさんと結婚して帰国後、生まれ育った白山町の町で開いたゲストハウスだ。

 

日本の伝統文化が感じられる築130年の古民家

 

築130年の古民家を改装した宿は一見、全国各地によく見られるような農家民宿の風情を漂わせた空間となっているが、 “多文化体験宿”という名の通り、ここではさまざまな文化に出会い、新たな発見を得ることができる。
オーナーの倉田さんはどのような経緯を経て「ゲストハウスイロンゴ」を立ち上げるに至ったのだろうか。

 

フィリピンネグロス島で9年間植林活動に取り組む

 

フィリピンで植林活動に取り組んでいた当時の倉田さん

 

中学生の頃から環境問題に関心が高かったという倉田さんがNGO法人の現地駐在員としてフィリピンネグロス島に渡り、マングローブの植林活動に取り組むようになったのは2008年のこと。9年間にわたる活動を経て2017年に帰国した。

倉田さん:植林活動とともに、日本から来るボランティアの受け入れ窓口も担当していました。現地を案内したり、ホームステイのプログラムを組んだり。色々な人を迎えて交流を深めるのは楽しかったです。

 

家族揃ってフィリピンへ里帰りすることも

 

倉田さんが活動を行っていた地域はネグロス島の中でも観光客がそれほど訪れるような場所ではなかったが、倉田さんたちの活動を通じて多くの人たちを迎えるようになったことで、新しいレストランができたり、街並みが綺麗になっていったという。

 

 

倉田さん:人が多く訪れるようになると町全体が活気づいていきました。帰国後に地元の町でもこうした変化が起こせればと思いました。

「イロンゴ」という言葉はハロルドさんの出身地で話されている言葉や地域、文化を表しており、フィリピンで100種類以上ある言語のひとつでもある。「色んな」という言葉と音の響きが似ていることもあり、ゲストハウスの名前の候補に上がった。

倉田さん:世界中から色んな人たちが訪れて、白山という町の魅力を感じてもらえる宿にしたいと思って名前を付けました。

地域の魅力を伝えるためには、訪れた人にさまざまな体験を通じて魅力を感じてもらうことが有効な手立てになる。倉田さんは宿泊者の体験メニューの充実を図った。

 

収穫した野菜を使ってフィリピン料理の調理体験も

 

6ヶ所の畑でさまざまな野菜の収穫体験が楽しめる

 

「ゲストハウスイロンゴ」は大小6箇所の畑を持っており、四季折々を通じて野菜の収穫体験を提供している。そして、イロンゴならではの魅力は、畑で収穫した野菜を持ち帰るだけでなく、さまざまな野菜を使ってハロルドさん直伝のフィリピン料理の調理体験を楽しめることだ。

 

野菜たっぷりの「ネバネバ野菜スープ」

 

たとえば倉田さんおすすめのメニュー「ネバネバ野菜スープ」は、モロヘイヤやオクラ、空芯菜、つるむらさきなど10種類もの野菜がたっぷり入ったとろとろのスープ。フィリピンではお味噌汁感覚で食べられているという。

 

青パパイヤはフルーツではなく野菜として販売している

 

秋から冬にかけては青パパイヤの収穫体験も行っている。

倉田さん:青パパイヤには脂質や糖質、タンパク質それぞれを分解できる酵素が含まれているので、体内で消化を助けてくれるんです。フィリピンでは授乳中のお母さんに推奨されています。

 

 

倉田さんはパパイヤを販売するとともに、自らが理事を務め、地域の農泊振興を目指す(一社)Landing in HAKUSANの事業として、パパイヤやブルーベリー、イチゴの葉を粉末状に加工したお茶を開発して販売。緑茶のような飲み心地の中にほのかに香りが漂ってきて、スッキリとした味わいが楽しめる。

 

わな猟は体験メニューとしてだけでなく、普段から行っている

 

わな猟を用いた狩猟体験もイロンゴならではの体験メニューだ。わな猟の資格を持つ倉田さんと一緒に山に入って、くくりわなを仕掛ける。

倉田さん:山の中で動物たちがどのように暮らしているかといった話もしながら、シカやイノシシの足跡を探し歩いて、仕掛けたわなの様子を翌朝また見に行きます。

この地域では野生動物が甚大な農業被害をもたらしており、耕作放棄の原因にもなっている。狩猟は地域の農業を取り戻すための取り組みでもあるのだという。タイミングよくわなにかかっていれば、ハロルドさんが敷地内で解体している様子を見ることもできる。また、予約をすればジビエ料理を使った調理体験も提供してもらえる。

 

“ホームステイ感覚”で過ごせる場所

 

和室と洋室の2タイプの客室がある

 

 

取材に訪れた日には京都から三重に旅行に来たというご夫妻がワンちゃんと一緒に宿泊中。ペット連れで泊まれる宿は少なく、貴重な存在となっている。また、「ゲストハウスイロンゴ」のある津市白山町はお伊勢参りの途中に寄りやすい場所ということで利用する観光客も多いという。

 

宿泊客と一緒に話に花を咲かせる時間も

 

家族の過ごす広間はコミュニケーションスペースになっており、宿泊客といっしょにパパイヤのお茶を飲みながら歓談の時間も。

倉田さん:「ゲストハウス」という名前ですが、お客さまからは“ホームステイ”のような感覚で過ごせたというお声をよくいただいています。

 

ゲストハウスイロンゴはペットも宿泊OK

 

宿泊部屋と家族のプライベートスペースとの境目をはっきりと分けていないのが「ゲストハウスイロンゴ」のスタイルなのだ。

倉田さん:夜は宿泊している方とテーブルを囲んでお話しをすることもよくあります。そうやって顔を合わせて一緒に過ごすのは大切な時間になっています。

倉田さんのフィリピンでの活動やイロンゴに込めた想いなどの話題に花が咲くこともよくあるという。

 

ハロルドさんの料理を手伝う「ウーファー」のクレオさん

 

この日、歓談の場に同席していたのはフランスから「ウーファー」として訪れていたクレオさん。ウーファーというのは「WWOOF(ウーフ)」という有機農家のホストとボランティアをマッチングするサイトで、「ゲストハウスイロンゴ」では年間60人程度のウーファーを受け入れている。滞在期間は1週間程度から長い人だと3ヶ月間に及ぶこともあり、ほぼいつでもウーファーがいるような状態だ。

 

「ウーファー」として訪れたクレオさんは12日間滞在する予定

 

ウーファーは無料で宿泊して食事も提供される代わりに、草取りや収穫、出荷といった農作業やゲストハウスの仕事を手伝う。

クレオさん:日本に来るのは5回目になります。農作業は初めてのことなので、新しい経験ができて嬉しいです。

宿泊に訪れた人にとっても、世界各国からやって来たウーファーはさまざまな文化と触れ合える経験を提供してくれる存在となっている。

 

「白山町の町を〝世界から若者が集まる田舎〞に」

 

コミュニティスペース「ハッレ倭」とオルタナティブスクール「スコーレ倭」の運営も手がけている倉田さん

 

倉田さんは2020年からコミュニティスペース「ハッレ倭(やまと)」の運営も手がけている。昭和11年に建てられた旧倭村役場の風情ある佇まいの中では、ヨガや煎茶、アロマセラピーなど多彩なジャンルの講師が教室を開講したり、国際色豊かなイベントを開催。

倉田さん:地域の人が自然と集まっていて、観光に来られた方がいつでも地元の方と触れ合える場所にもなってくれればという思いがあります。この場所を拠点に、白山町の町を〝世界から若者が集まる田舎〞にしていきたいですね。

「ハッレ倭」では、“もう一つの学校” といわれるオルタナティブスクール「スコーレ倭」も開校している。スコーレ倭に通うために外国の方が長期滞在したり、白山町に移住してきた家族もいるとのこと。

倉田さん:ゲストハウスやハッレ倭、スコーレ倭が相互作用的にうまくかみ合って、この地域に住んでみたいと思う人が増えてくれたらと思っています。

 

 

ハロルドさんと2人の子どもとともに暮らしながら、生まれ育った白山町の町に新たな風を吹き込んでいる倉田さん。活動の幅を広げる中で地域への想いはいっそう高まっている。

倉田さん:ゲストハウスには色々な国の人が訪れていますが、ワンちゃんを連れて散歩しているときに近所の人が挨拶を交わしてくれたり、会話をしていたりする姿を見ると嬉しくなります。微々たる力ですが、地域の人たちにもいい出会いを提供していけたらいいですね。

高齢化が進み、変化が起こりにくい地域の中にあって、倉田さんの取り組みは一滴のしずくのように波紋を広げ始めているのかもしれない。

 


 

取材協力
ゲストハウスイロンゴ
住所:三重県津市白山町佐田1647
電話番号:090-4415-4042
HP:https://www.guesthouseilonggo.com
Instagram:https://www.instagram.com/guesthouseilonggo_mari/
https://www.instagram.com/guesthouseilonggo/

取材:2024年3月2日
文・写真:ライター 宮沢裕司

※写真一部 ゲストハウスイロンゴ提供

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