2022.01.24

はぜの風

世代を超えて人と人との架け橋に。みんなで波瀬に新しい風を吹かせたい!波瀬のクレソン「はぜの風」の北川京子さんの物語

江戸時代には本陣が置かれ、宿場町であった波瀬地区の風景

奈良県境に近い山里、松阪市飯高町波瀬地区は、清流櫛田川が流れ、香肌峡県立自然公園に指定されている。1,000m級の山々に囲まれ、集落が点在する山深い里だが、かつては宿場町として栄えた。そんな波瀬地区で生まれ育った北川京子さんは、同地区で波瀬のクレソン特産料理「はぜの風」のレストランを経営している。

「はぜの風」の北川さん

北川さん:12年くらい前に、主人が休耕田にわさびを植えようとした時、根っこに天然のクレソンが混じっていたんです。わさびはダメになったんやったけど、混ざっていたクレソンがモコモコ増えてきて、最初は邪魔に思って草刈り機で刈ってたんですよ。この地域に移住された方がそれを見て、体に良いのにもったいない、と言うから、最初はその方に引き取ってもらったりしていました。

クレソン畑の一角

自分たちでも食べきれなくなるくらい育ったクレソン。近くにあるホテルの売店で販売を始めるが、当時は認知度が低くあまり売れなかった。スーパーで対面販売を始めた頃、お客さんと対話してみると「どう食べていいのかわからない」という声が多かった。レシピをつけて販売していくうち、新聞や地元紙に取り上げられるようになったという。

クレソン鍋で、山盛りのクレソンを頂く。

北川さん:元々、「はぜの風」がある場所で、小さなレストランをしていました。でも、山奥でエビフライやトンカツを出さなくてもええやろと、この地で採れるクレソンや山菜を使った料理へ一気に転換したんです。完全予約制にしたらロスもないし、野菜のほとんどが波瀬を中心とした地元のもの。昔ながらの料理やったら、教えてくれる先生はいっぱいいる、地域のおばあちゃん達に郷土料理を教えてもらったんです。

北川さん特製の干し柿

 

人と人との架け橋になっていく

「はぜの風」は地域住民が集う場にもなっている。

お店では、地域伝統のこんにゃく作りのワークショップなどが開かれ、85歳のおばあちゃんから移住者を含めた若い世代へと、地域の食文化が受け継がれていく。高齢化や過疎化の著しい波瀬地区だが、北川さんをはじめ、繋がりを大切にする人々によって、地域の伝統や文化は今後も消えることなく継承されていくのだ。北川さんは世代を超えて、人と人との架け橋となっていく。

「はぜの風」と北川さん

北川さん:おひなさんの頃には、地域の人らと女子会もしています。今は男の人も、地域外の人も一緒に、「よいとこな会」に名前を変えて、ちょっとしたミニコンサートを開いたりしてます。最後にお餅まきをやったら、おばあちゃん達が張り切って元気になるよ!あなたも遊びにおいで!

持ち前の明るさと純粋な笑顔からだろう。北川さんは「波瀬のハイジ」と呼ばれているのだという。「ハイジも年取るでなあ」と、笑った顔がとても可愛らしく、納得のネーミング。北川さんは波瀬のアルプスで生き生きと暮らす、実写版ハイジだった。

地域住民が関係人口を呼び込む、「ワンデイカフェ」

 北川さんは、昨年から新しい取り組みを始めた。松阪市地域おこし協力隊や地域住民と共に、この地の食材を使った料理等を提供する、「ワンデイカフェ」というイベントを開催している。当初は「はぜの風」で開催するつもりだったが、お店の近くにある波瀬ゆり館(旧波瀬小学校)で開催することになったという。

波瀬ゆり館(旧波瀬小学校)(ライター提供)

「ワンデイカフェ」の様子(ライター提供)

 

私もこのイベントを訪れたが、普段は静かな波瀬地区に、県外からも多くの客が押し寄せ、人々の関心の高さに驚いたのを覚えている。春には3回目のワンデイカフェが開催される予定だ。10代から80代までの移住者を含めた地域住民が主体となり、この地域と多様に関わる関係人口を継続的に呼び込んでいく。

波瀬の主要道路である国道166号線。春は桜、秋は紅葉が楽しめる。

 

北川さんがどのような思いで「はぜの風」を経営されているのか伺った。

北川さん:お客さんとの対話を大切に経営しています。私、おしゃべりやもんで、お客さんとの対話の中で、逆にレシピを教えてもらうこともあリますよ。そうやって関西等の遠方のお客さんでも、何年も通い続けてもらっているんです。

クレソンの認知度が低くあまり売れなかった頃にも、対面販売で消費者と対話することによって「お客さんにお勧めの調理法を伝えれば買って頂ける」ということに気付かされ、レシピと共に販売するという糸口を見つけ出した北川さん。いかに対話の力が大きいかがわかる。

最後に、北川さんに今後の夢を伺った。

北川さん:過疎化が進む波瀬を元気にしてくれた行政の方、いつもパワーをくれる若い移住者、そんな人たちの存在があったからこそ、ここまで来れたんやと思う。これからも、もっとこの地域に移住してきてもらって、みんなで波瀬に新しい風を吹かせたい!

過疎化が進む山間部に新風をもたらす北川さん。「はぜの風」には今日も、北川さんや波瀬地区に魅了された人々が集う。あなたもそんな「波瀬のハイジ」に会いに行ってみてはいかがですか。

 


 

取材協力

はぜの風
住所:〒515-1724三重県松阪市飯高町波瀬565
電話番号:0598-47-0825
Facebook: https://www.facebook.com/Hazenokaze/

取材:2021年12月5日
文:WEBマガジンOTONAMIE ライター 野呂育美
写真:松原 豊

 

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