2022.01.19

民泊いづほ 川辺の宿さんずい

大紀町の豊かな地域資源を活用した体験型観光事業!農林漁業体験民宿で地域の魅力を国内外に伝える 藤原いづほさん、濱はるみさんの物語

大紀町は人口約8千人の小さな町。温暖な気候で、海、山、川が揃う。熊野灘に面した錦漁港、世界遺産である熊野古道のツヅラト峠、荷坂峠、透明度の高い宮川と大内山川が流れる風光明媚な町だ。

そんな大紀町では、豊かな地域資源を活用した体験型観光事業に力を入れており、特に大紀町の暮らしが体験できる農林漁業体験民宿が人気だ。町内には農林漁業体験民宿が20軒あり、国内だけでなく、海外の観光客や教育旅行生も受け入れている。

「民泊いづほ」の藤原いづほさん

お話を伺ったのは「民泊いづほ」を運営する藤原いづほさんと「川辺の宿さんずい」を運営する濱はるみさん。

藤原さんは、2018年に退職後、翌年1月に民宿を開業。開業した年は年間約100名を受け入れた。
藤原さんは、民宿を始めるにあたり、さまざまな国の人と交流する経験をするため、知り合いの紹介でWWOOF(金銭のやりとりをせず、労働力を提供する代わりに、食事・宿泊場所や知識・経験を提供してもらう仕組み)に参加し、長野県のりんご園で様々な国からの参加者と40日間共に過ごした。

自宅の一角を宿泊スペースにしている

宿泊スペース

藤原さん:田舎もんやから、初めは海外の言葉の通じない方とコミュニケーションが取れるか不安やったんですけど。言葉が通じなくても時を一緒に過ごせば、通じあえるという体験をしたんですね。よし、やってみようという気持ちになりました。

 

屋外にあるテラススペース

五右衛門風呂が体験できる

 

 

民宿がスタート、こんなエピソードも。

民宿を始めて間もない頃、中国から来た小学生の男の子が、食事後ゴム鉄砲で遊んでいると、誤って障子に穴を開けてしまった。男の子はとっさに自分が持っていた1,000円札を財布から取り出し、藤原さんに差し出した。藤原さんはジェスチャーで大丈夫だ、気にしなくていいと伝えたが、男の子はもう1枚、1,000円札を藤原さんに差し出したという。

藤原さん:これはあかんなと思って、チラシを持ってきて、これでええんやという感じで、穴の空いたとこに貼り付けて見せたんですわ。そしたらやっとわかってくれましたね。民宿を始めて間もなかった頃やし、すごく印象に残ってますね。

外国人対応の案内板

又、パキスタンから訪れた社会人の女性は、ビーガンという菜食主義者であり、事前にその情報は得ていた。ビーガン向けの食材を準備していたが、なかなか食事をしてくれなかったという。藤原さんはとても心配していたが、そのうち女性は、パキスタンから持ってきたレトルト食品を藤原さんに見せた。

藤原さん:パキスタンで食べている食事の写真も見せてくれて。その中にグラタンのようなものがあったんです。うちで採れたじゃがいもでポテトグラタンを作ったら、やっと食べてくれました。反対に、私らはパキスタンのレトルト食品を食べさせてもらいましたね。

宿泊した教育旅行生から届いた手紙

手紙を手にし笑顔がこぼれる

 

 

特別なことではなく、身近にある田舎の日常を。

藤原さんがどのような思いで民宿をされているのか伺った。

藤原さん:一晩か二晩という短い期間ですが、お客さんではなくて、家族のように迎え入れるようにしています。うちに来てすぐの時はお互い緊張してますけど、食事を一緒に作るんです。さっきまでの緊張感が嘘のようにほぐれて、食後は和気あいあいとしてますよ。離村式をしてバスを見送る頃には、子どもたちが泣いてくれるのがたまらなく嬉しいです。そんなにも心に響いてくれるものがあるんかというのは、民宿を始めるまで想像してなかったですね。

一つのことを一緒にやる。一緒にたこ焼きを作ったり、手巻き寿司を作ったり。餅まきなどの地域行事に参加する。特別なことではなく、身近にある田舎の日常を体験してもらうようにしているという。さらに、今後の夢について教えてもらった。

テラスから見える風景

藤原さん:技術を持った70歳前後のリタイアした人たちが、まわりにたくさんいるんですよ。そんな人たちの生きがいにもなるように、田植えや稲刈りなどの体験スタッフとしてリタイアした方々に参加してもらいたいです。大紀町全体で民宿に関わる人が増え、この地域の活性化につながればいいなと思っています。

 

 

 

いづほ、はるみコンビは最強コンビ。

「民泊いづほ」の藤原さんと家族のように仲が良く、「いづほ、はるみコンビは最強コンビ」と言われている濱はるみさん。

「川辺の宿さんずい」の濱はるみさん

かつては神戸の貿易商の別荘だったという立派な家屋。その隣には清流が流れ、泳ぐ鮎の姿が見える日も。

宿のすぐ隣を流れる大内山川

庭で育った萩が飾られた玄関

自宅の一角にある宿泊スペース

濱さんは兵庫県出身、その後津市に移り住んだ。55歳の時に調理師免許を取得し、自由を求めて大紀町へ。

濱さん:都会で疲れている人が、ゆっくり羽を休めて、また飛び立って行ける場所を作るのが夢やって、この広い家がぴったりやったんですね。最初はランチの店を8年くらいやってました。もっと自分自身の自由が欲しいなと思い始めたんやけど。落ち着いてられへん人間やから、今度はパンを焼いてパンマルシェに出したりしてました。それも体力的に持たないと感じて全部やめた時、出会ったのが民宿でした。

暮らしの中で地域と繋がっていく。

大紀町に移住された濱さん。地域との繋がり方について教えてもらった。

地域の人と作り上げたピザ窯(写真は濱さん提供)

こちらも最近地域の人と作り上げたかまど

濱さん:地域の人とは、暮らしの中で自然に繋がっていくんです。錦の漁師の方がドカンと魚を届けてくれるので、いづほさんと一緒に料理して、地域のみんなで集まって食べたり、お裾分けしたりする。ご近所には「何かするならと助けるよ」という人がたくさんいるんですよ。この地域のおおらかな気質なんでしょうね。

さんずいのご主人で、俳句講師の濱草坪さん

又、川辺の宿さんずいでは、俳句講師のご主人が「HIKE&俳句」というイベントを行い人気を集めている。四季折々の自然を愛でながらハイキングと俳句を満喫、更にさんずいのランチを堪能できるという。自ら人が繋がる場を開いているからこそ、人々の交流が生まれ、それが自身の楽しみにも繋がっていくのだ。
最後に、今後の夢について伺った。

濱さん:民宿は楽しいし、面白い。こんな面白いことを、何でみんなしないのかと思いますね。大紀町の農林漁業体験民宿は今20軒やけど、今後はもっと増えて広がって欲しい。若い移住者をどんどん誘致したい。人との繋がりがいいし、海も山も川もある。最高!

私事だが、国内外のゲストハウスを転々としていた時期があった。その土地の住民と同じようにその土地の食料を買い、キッチンでわいわい食事を作って過ごした。

当時のことをふと思い出すと、他にも自分の居場所がある気がして、気持ちがふわっと軽くなる。そんな何気ない旅先での記憶が、教育旅行生や他の宿泊客を影で支え続ける、心の拠り所になるのかもしれない。

 


 

取材協力
民泊いづほ
住所:〒519-3111三重県度会郡大紀町大内山342-3
電話番号:090-7601-6746
H P:https://taiki-bm.wixsite.com/iduho

 

川辺の宿さんずい
住所:〒519-2704三重県度会郡大紀町阿曽1568
電話番号:090-3151-7633
HP:https://taiki-bm.wixsite.com/sanzui

 

取材:2021年11月8日
文:WEBマガジンOTONAMIE ライター 野呂育美
写真:松原 豊

 

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