2022.03.17

合同会社味工房わたらい

度会町の主婦らが会社設立。ジビエを使った特産品開発で町を元気に!「合同会社味工房わたらい」縄手さんたち度会町のお母さんの物語。

度会町は、清流日本一に輝いた宮川や、支流の一ノ瀬川が流れ、その川の周辺には茶畑が広がる緑豊かな町。全国的に鹿や猪による農作物被害が問題となっている今、度会町でもその被害は大きく、農作物を獣害から守る対策が不可欠となっている。獣害対策により捕獲された鹿の有効活用による、三重県産鹿肉の消費拡大をきっかけとして、度会町のお母さんたち6名は「合同会社味工房わたらい」を立ち上げ、現在は度会町の次世代育成をも行う、縄手さんたち度会町のお母さんにお話を伺った。

味工房わたらいの顔であり経理担当でもある、代表の縄手和子さん。

 

味工房わたらいのメンバーは、左から福井千佳子さん、福井ちづさん、中西貞さん、縄手和子さん、取材当日は不在だった福井喜美子さん、大本タエ子さんを含む6名で構成される。

 

平成21年、縄手さんら6名が所属していた度会町商工会女性部は、農作物の獣害をなんとかしたいという農家の声が多く聞かれることから、鹿肉や猪肉を使ったミートボールやそぼろなどの商品開発を行った。当時ジビエはあまり普及していなかったが、イベントなどで販売しても食べ歩きが容易な、鹿肉入りコロッケ「しかちゃんコロッケ」を開発。その後、何度も試作を繰り返し、子供たちのアレルギーを考慮した、卵やマヨネーズを使わない美味しいコロッケに辿り着いた。

「しかちゃんコロッケ」

 

CoCo壱番屋とコラボした「シカコロオチャメカレー」

「しかちゃんコロッケ」は好評となり、三重県、度会町、度会町商工会女性部が連携し「しかちゃんコロッケ」を使った商品の開発を行うことになった。平成24年6月から7月の期間限定で、「カレーハウスCoCo壱番屋」とコラボし、カレーに「しかちゃんコロッケ」をトッピングした「シカコロオチャメカレー」を販売。三重県下の「カレーハウスCoCo壱番屋」で売り出されたことはとても嬉しく大きな達成感があった。しかし、期間が終了すればコロッケの販売ルートがなくなってしまうことを危惧し、縄手さんら6名は会社を設立することに。

縄手さん:みんなで試行錯誤して、完成したコロッケをCoCo壱番屋さんに納めて美味しいと言ってもらえた時は、みんなでほっとしましたね。ここまでやってきたんやからさ、冷蔵庫や金属探知機などの機械を寝かしてしまうのももったいないし、6人でやろやないかということで味工房わたらいを始めたんです。

縄手さんら6名は平成26年5月、元茶業組合だった施設を改装し、「合同会社味工房わたらい」を設立。三重県内のイベントに積極的に出店、県外からも多くの客が訪れる町内の流水プールでの販売も行い、現在は度会町のふるさと納税返礼品にも登録されている。また、「しかちゃんコロッケ」は度会町の学校給食でも取り入れられており、子供たちに人気だとメンバーの福井さんは言う。

福井ちづさん:給食に「しかちゃんコロッケ」が出ると、「おばあちゃん、コロッケめっちゃおいしかったわ」と孫が言うんです。コロッケが余った時は、ジャンケンで取り合いになるくらい人気だそうです。

 

厳しい基準をクリア、みえジビエのお店

平成29年6月には、「ジビエを使った特産品開発で町を元気にしたい」という思いから、味工房わたらいはみえジビエのお店に登録。みえジビエとは、三重県が運用するみえジビエ登録制度に登録された事業者が扱う、県内で捕獲された野生の鹿肉および猪肉のことであり、厳しい基準をクリアした事業者のみが登録される。

 

縄手さん:いちばん大変やったのはこのみえジビエ。登録に3年かかりました。特産品の開発で町を元気にしたい。早くコロナが収束して、祭りとかあちこちへ行きたいですね。

 

コロナに負けず、新たな商品を生み出す力

福祉施設にコロッケを届けたり、駅伝でおにぎりと豚汁を作って提供したり、地域との繋がりを大切にしてきたパワフルなお母さんたちだったが、近年は新型コロナウイルス感染症の拡大によりイベントのほとんどが中止となっている。

縄手さん:駅伝大会では、5時ごろからご飯を炊いて、あったかいうちに握って、あつあつの豚汁と一緒に参加者に提供して喜ばれてたんやけど、ここ2年はコロナで中止になってしまったんです。コロナでどこにも行けず寂しいし、収入が何もかもたたれてしもた。なっとしたらええやろか、みんなで考えました。

そこで、みんなで話し合って、イベントに出向いてジビエの販売をするのが難しいなら、この施設内で町内のコシヒカリを使い米麹食品を作ってはどうかと、麹発酵機を導入した。その名も「こうじ君15S型」。

麹発酵機「こうじ君15S型」

1日目の朝、米を研ぎ浸水しておき、翌朝水からあげて半日水を切ったら、2日目の午後にみんなで蒸し器で蒸す。蒸した米を37度から40度ににさまし麹菌を投入、麹発酵機に入れ寝かせる。その間何度か混ぜたら、4日目にようやく米麹ができるという。手間暇かけた主婦の技が光る米麹「わたっこ」の完成だ。

「わたっこ」と「うまいなァ」

さらにその「わたっこ」を使い、人参、ごぼう、椎茸、ピーマンに醤油などの調味料を加えてできたものが、「うまいなァ」、それに鹿肉を加えたものが「鹿しうまいなぁ」である。

「鹿しうまいなぁ」

どちらもご飯のお供にぴったりで、冷奴に乗せたり、野菜スティックにつけても美味しいのだとか。それにしてもこの抜群のネーミングセンスは、一体どこから来ているのか。

縄手さん:商品名は自分らで楽しんで考えています。ここへ来て、笑って笑っててして働いて、うちへ帰るんやわ。

福井千佳子さん:こんなにみんなで集まって笑えるのは、ええことやな。

縄手さん:みんなそれぞれ得意な事がある。「これなら私に任せて!」という感じで、やりやすいですよ。

メンバーであり伊勢茶の加工販売業を営んでいる中西貞さんは、度会町の特産品である伊勢茶やブルーベリーを使ったピザやスイーツを商品化しており、味工房わたらいでもスイーツの開発を担当。また、メンバー全員で野菜塾を立ち上げ、ピーマンや人参などの様々な野菜を作っている。「元気野菜」と名付けた安全安心な野菜は、商品にも使用しているという。終始笑いの絶えないお母さんたち。本人たちが楽しんでいるからこそ、ユーモアいっぱいの商品が生まれるのだろう。お母さんたちの信頼関係の強さと、地域を元気にしたいという思いが伝わってくる。

 

次世代メンバーがその味を受け継ぐ、コロッケ隊!

味工房わたらいには縄手さんら6名に加え、地域の50代前半の主婦などで構成される、コロッケ作り専門のメンバーが5名存在するという。その名もコロッケ隊だ。

縄手さん:コロッケ隊は手早いよ、握るだけでグラム数がわかるの。

味工房わたらいの取り組みは、地域住民と共に次世代へと受け継がれていく。そして、子供たちは給食で「しかちゃんコロッケ」を食べることにより、獣害という地域課題を知るきっかけになるだろう。

最後に縄手さんに、今後の夢を伺った。

縄手さん:やっぱり次世代の育成と、新しい商品の開発かな。たくさん売って就業機会の場を提供していきたい。それから今後はネット販売にも挑戦やな!

お母さんたちの元気の源は、楽しく働くことと、米麹「わたっこ」で作る甘酒だろうか。飲む点滴とも言われる甘酒は、昔ながらの発酵食の知恵として、現代でも親しまれている。味工房わたらいのお母さんたちの知恵と活力もまた、次世代へと受け継がれていくはずだ。

お母さん手作りの甘酒は、爽やかで優しい甘さ。

 


 

取材協力

合同会社味工房わたらい
住所:〒516-2103  三重県度会郡度会町棚橋1900番地

 

取材:2022年2月5日
文:WEBマガジンOTONAMIE ライター 野呂育美
写真:松原 豊

 

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