2025.04.01

島の旅社(島の旅社運営協議会)

答志島の豊かな自然の中で海の魅力を体験するプログラムを提供 「島の旅社」川原紗知恵さんの物語。

 

2005年に活動を開始した「島の旅社」 

 

島の旅社 玄関

 

鳥羽港から北東2.5キロメートルの沖合に浮かぶ、伊勢湾最大の島、答志島。

そこにある「島の旅社」では、漁村の豊かな自然や町並みの中での体験を通じて、子どもたちの「生きる力」につなげている。干物づくりや魚釣りでは、生き物の命をもらうことの大切さを学び、海女さんや漁師さんからは海での操業の体験談や漁に使う道具などについて話を聞くことができ、漁村の暮らしぶりを見学・体験することができる。

そんな「島の旅社」で働く、川原紗知恵(かわはらさちえ)さんに話を伺った。

 

川原さん:協議会を立ち上げてから今年で創立20年を迎えます。当時中心になっていただいた方もお亡くなりになったりして、現在事業に携わっているのは、事務局長お一人です。
スタッフ10名の内、会長と小型船舶の船長さん以外は女性で、島のかあちゃん達です。家業が漁業者のスタッフは、養殖ワカメ等が繁忙期の冬季は本業に戻るため、スタッフ不足です。普段は、仕事の依頼がある時だけスタッフが集合して活動するので、利用者が多い時は島民の方にお願いしています。

 

島の旅社の川原さん

 

答志島を「体験」してもらう

 

川原さん:「島の旅社」で提供している活動は、観光ガイドと言うよりも、主な事業は小・中学校等の臨海学習や修学旅行で訪れる生徒さん達に離島の昔ながらの漁師町の暮らし(生活感)や海を活用した磯遊び体験、魚釣り、路地裏ビンゴゲーム、シーグラスアクセサリー作り、海女さんの話など、答志島ならではの海の遊びメニューです。観光客の方には主に路地裏散策、島内サイクリング、海女小屋体験等を行っています。

 

海女小屋体験

 

川原さん:磯遊び体験では、浮島自然水族館といって、答志島の沖合に浮かぶ無人島へボートに乗って遊びに行き、自然のままの磯場で生き物たちと直接触れ合うことができます。

 

浮島自然水族館で磯遊び体験

 

海女小屋・海女の文化を求めて海外からも

 

アメリカ、オーストラリアなどの外国の団体客も多い。海女小屋、海女の文化に興味津々だそうである。また神社仏閣にも関心のある人が多く、熊野古道を回って答志島に来るのだという。真珠に惹かれる観光客もいる。最近は中国のインフルエンサーが島ならではの「食」を求めてやってきた。牡蠣や伊勢海老を堪能していったという。

 

御神木の龍神様がいる美多羅志神社(みたらしじんじゃ)

 

 

川原さん:私自身英語は苦手です。現在は、とても便利な世の中になり、翻訳アプリもありますが、より良く島の文化を知って頂くため、英語のガイド表も作成しています。

一方、国内の観光客はまず家族連れ、ついでシニア世代も多い。児童生徒、学校団体も受け入れいている。とりわけ小中学校、なかでも私立小学校が多く授業の一環で訪れる。最近は、自然環境の中で遊んだり生活したりする子どもが減少しているため、生き物が苦手、そもそも触ったことが一度もないという児童が多いのだという。磯遊びを始めると最初は怖がる。まずフナムシが何万匹と出迎えてくれるのだが、みんなそこで凍りつく。貝は大丈夫だが、他の生き物は触れることはできず、蟹も触ることが出来ない。そうした子どもたちの様子を知っているからか、夏休みの自由研究として家族連れでくるケースもあるそうだ。エイやタコなどを目の当たりにして驚きを得て帰っていくという。そのようなニーズがあることを踏まえ、夏休み用の自由研究のための企画を立案中だ。

また、大学生が腰を据えて海女の文化についての論文を書くために訪れることもある。答志島の流し台「外流し」の研究をしている人もいる。一家に一つずつある外流しを研究し、島の文化を調査しているそうだ。

 

答志島ならではの路地裏案内

 

答志島の集落内には、迷路のように入り組む路地がある。車が入れない路地では、手押しのじんじろ車が活躍する。

 

迷路のように入り組む路地

狭い路地で荷物の運搬に使用するじんじろ車。時には、乳母車の代わりになる。

 

川原さん:学生さんや会社の旅行、家族連れに対して、路地裏案内をすることが多いです。路地裏は昔ながらの漁村の生活文化を垣間見ることができます。島のかあちゃんたちの案内で、路地裏を歩きながら答志島の歴史などをお話します。路地裏は本当に迷路のようになっているので道先案内人が必要です。答志島独特の生活文化に関心がある方に喜んでいただけます。

 

スタッフは島の外から嫁いできた人。地域の人たちと連携して活動

 

路地裏を見てもわかるように、独自の漁村文化を築いてきた答志島。その文化について、どう感じるのか、川原さんに伺った。

 

川原さん:は大阪出身で、地元に祭りや伝統文化がある地域で育っていないので、伝統文化、特に「寝屋子(ねやこ)」ってなんだろう?とか文化の違いについて驚くことがたくさんありました。
でも島の旅社で働くようになってから、困った時など島の方に助けられることがたくさんあります。
「寝屋子」制度が今も現存していて、そのことが「助け合い精神」に繋がっていることを身をもって感じています。地域の方との連携がなければ活動できないと思っています。

 

寝屋子とは、親戚ではない親代わりの人のところで寝泊まりし擬似親子のように預かる制度で、親戚以上に濃厚な関係と言われる。

川原さんや他のスタッフも、塩蔵ワカメや海苔など季節ごとの仕事をこなしながら、各自の都合に合わせて「島の旅社」で働いている。答志島は移住者が多い。男性は数人、女性はほぼ結婚で島に移り住む。生活はどちらかというと昭和だ、と川原さんは笑う。おしゃれでは全然ないけれど、アットホームで、観光ガイドの運営自体地元の人たちとの連携がなくては成り立たないのだという。漁協や旅館、町内会、老人会、市役所、学校の先生。地域ぐるみの活動となっている。

 

八幡神社の祭礼「神祭」。「お的衆」が「お的」と呼ばれる木組みに紙を張って墨を塗ったものを担いで坂を駆け上がると、待ちかねた町民が次々とお的に飛び込み墨紙を奪い合う。

 

島内のあらゆる所に㊇が書かれている。町民は護符にかわるこの墨紙で家の戸や船に「㊇」を書いて、1年の大漁と家内安全を祈願する。

 

「島の旅社」が目指す答志島での交流

 

川原さん:学校、企業、家族連れ等の宿泊を伴う旅行に繋がる新企画や情報発信で島に訪れる人が増え、交流の活発化により島の産業が活性化するよう頑張りたいです。

 

島ならではの独自の文化がある答志島。その文化に魅せられる人も多いだろう。何よりも、「島の旅社」の活動に協力してくれるような心あたたかな地域であることが最大の魅力だと感じる。気楽に話しかけられる島民が住むこの島で、答志島ならではの自然や文化を体験してみては。

 

 


 

取材協力
島の旅社(島の旅社運営協議会)
〒517-0002 鳥羽市答志町943
電話番号: 0599-37-3339

取材:2025年1月22日
文 :後藤宏行
写真:大西康博

※写真一部「島の旅社(島の旅社運営協議会)」提供

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