2025.04.01
アタシカデイズ美しい海岸に面したカフェ&ゲストハウス「アタシカデイズ」。綺麗な海を求めて熊野市新鹿に移住した、サーフィンと自然を愛するオーナーの近藤久史さんの物語。

熊野市新鹿海水浴場は、夏になると関西各地から多くの海水浴客が訪れる人気スポットだ。ここは、白く細かい砂浜や独特な地形、そして青く澄んだ美しい海が楽しめる場所である。さらに、すぐ目の前には世界遺産の熊野古道・伊勢路が広がり、歴史と自然が調和する素晴らしい場所だ。

アタシカデイズ。1階左サイドが喫茶店、2階が宿泊施設。
新鹿を訪れた日は、年に3回ほどあるという紀勢自動車道からの最短ルートが工事で通行止めになる日であった。急峻な山道を越え、静穏な新鹿にたどり着いた私たちを、近藤久史(こんどう ひさし)さんは温かいコーヒーと明るい笑顔で出迎えてくれた。 カフェ&ゲストハウス「アタシカデイズ」は東の海を向いた、おしゃれで周囲とも馴染んだデザインの2階建ての建物だ。

コーヒーを淹れる近藤さん
津市出身の近藤さんが、熊野市新鹿町に移住した経緯は何だったのだろうか。コーヒーの落ち着く香りに包まれながら、近藤さんにこの地ではじめたゲストハウスについても併せてお話しを伺った。
近藤さん:移住したのは2020年ですね。きっかけはなんだろう。海が好きでね。波乗りしますから。海の近くで暮らしたいなと思って。



新鹿海水浴場
近藤さんが新鹿町を選んだ理由は、新鹿町の海が非常に美しいという点だ。サーファーである近藤さんは綺麗な海の近くで暮らしたいと考えていた。確かに、アタシカデイズの目の前は海水浴場で、海が広がっている。
白く細かい砂質の砂浜とユニークな地形、高水準のきれいな水質で有名な新鹿海水浴場。熊野灘沿岸、リアス式海岸の新鹿湾に面し、夏になると日本中の海水浴客、訪日外国人からも評価の高い知る人ぞ知る人気の海水浴場だ。海外も含めたくさんのビーチを見てきた近藤さんが選んだのが、この新鹿の海だった。


カヤック体験
元々有機農業にも興味があり、海と同時に農地を求めて新鹿の地にやってきた近藤さん。現在経営する果樹園では、温州みかんやレモンといった柑橘類を育てて出荷している。
そんな近藤さんの営む カフェ&ゲストハウス「アタシカデイズ」は、カフェが併設されているゲストハウスだ。

柑橘類の収穫
近藤さん:カフェは冬の間はかなりイレギュラーな感じでやっています。不定期営業です。夏がメインになりまして毎週末オープンしていますね。
それとここの2階で宿泊、ゲストハウスをやっています。1日1組限定です。ゲストハウスの特徴としては海が見えるっていうことですね。美しい海が目の前にあります。
木のぬくもりを感じられる アタシカデイズは、近藤さんをはじめとしたスタッフとの交流も魅力の一つだ。まるで懐かしい場所に帰ってきたかのようにやさしく迎え入れてくれる。また、近藤さんがインストラクターとなり、SUPやカヤックの体験も提供しており、新鹿の海を存分に楽しむことができる。

アタシカデイズ
1階に併設されているスペースで不定期に営業されるカフェでは、地元熊野でとれた魚を使った軽食や近藤さんが育てたミカンで作ったジュースを味わうことができる。みかんジュースをはじめ、農園で育てたミカンやレモンは公式ホームページでも販売されている。

木の温かみを感じる喫茶店内
世界遺産「熊野古道・伊勢路」はヨーロッパからの観光客に人気
またアタシカデイズは、世界遺産である熊野古道・伊勢路沿いでもある。
広大な世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」の中にあって、熊野古道は熊野三山(熊野本宮大社、熊野速玉大社、熊野那智大社)に参るための道であり、その中でも「熊野古道・伊勢路」は紀伊半島の東側を周る、別名熊野街道である。

熊野古道・伊勢路
その熊野海道と海水浴場とが交差する新鹿の魅力は他に類を見ない。熊野古道・伊勢路を歩く宿泊客は海外、とりわけヨーロッパからの観光客が多いという。一方夏は日本人の海水浴客が多い。
あらゆる人々が集うアタシカデイズでは、明るい人柄の近藤さんを中心にいつも笑顔が絶えない。

新鹿町の波田須地域
近藤さんが2015年に移り住み、カフェとゲストハウスを始めたのが2020年。現在では宿泊施設は近隣にもう1軒「波音ゲストハウス」を有し、アタシカデイズや果樹園と合わせて、手広く経営している。
また、地元の人々との交流を積極的に行っており、特に狩猟を通じて多くのつながりをもつ近藤さんは、自ら仲間と共に猟に出かける。近藤さんは鹿を自ら食べるために獲るのだという。駆除目的で猟をする人もいるが近藤さんは全部食べるのだそうだ。食べられるところはすべて食べ、命への感謝を忘れない。また、狩猟仲間が作ったペット用の鹿肉ジャーキーの販売もしている。
地元となった新鹿の地域ではいろいろな集まりがあり、祭りにも参加する。
地元の方々とのご縁を大切にし、積極的に交流されている近藤さん。ほかにも移住された方は多いのか聞いてみた。
近藤さん:熊野市全体では結構いますよ。新鹿自体は結構小さい集落だからそんなにはいないけど。熊野市全体なら移住者は多いんじゃないですかね。今でもチョコチョコ、移住希望者の方から移住の相談を受けたりします。移住したいって人が多いです。ここはいいところですよ。
近藤さんは美しい海に魅力を感じて移住したが、他の移住者もこの青い海にひかれてやってきたのだろうか。近藤さんに伺うと意外な言葉が返ってきた。
近藤さん:いやいや。意外に山の方が移住者の人は多いですね。海辺りよりも山の方が空き家を探しやすいとか、色んな状況で山の方が多いですね。移住者はこの辺は結構、海の近くは空き家が少なくて家が探しづらいから、そういう意味ではちょっと少ないかもしれないですね。山の方が移住の方は多いです。
もっとスローな人の生き方、あり方を考え、伝えていきたい
ゲストハウスにカフェ、果樹園とあらゆる事業を手掛け、この地に根を張って生きる近藤さんに、今後の展望について聞いてみた。
近藤さん:まずは今あるこのお店。もっとしっかりとやっていきたい。ゲストハウスと、この飲食店、それに果樹園、畑を通じて、この新鹿の魅力をもっとアピールしたい。いいところだから。そうして新鹿だけではなく、日本の田舎の良さを広く知らしめたい。日本の田舎はいいんですよ。
近藤さんは「もっとみんな田舎に住めばいいのにな」と考えている。仕事も週3スパンで働くだけで生きていける。現在の生き方に凝り固まらずにそういうスタンスが必要ではないか。オルタナティヴな生き方を提案していきたい。熊野に来ている移住者にはそういうところを感じることがある。半分自給自足で生きている。ハイリスクハイリターンの都会とは逆で、ローリスクローリターンの多様な暮らし。 いろいろな生き方を模索したい、近藤さんは笑った。
取材協力
アタシカデイズ
〒519-4206 熊野市新鹿町479
電話番号: 090-4458-7027
取材:2025年2月13日
文 :後藤宏行
写真:大西康博