2021.10.21

いのさん農園

農業でたのしい田舎観光のベースをつくる!温泉地にムーブメントを起こす「いのさん農園」岡田孝幸さんの物語。

三重県のちょうど真ん中あたりにある津市白山町は、青山高原の麓、山々に囲まれた自然豊かな場所で、PH値9.4~9.7アルカリ単純泉の滑らかな美肌の名湯、源泉掛け流しの「猪の倉(いのくら)温泉」がある。

青山高原

猪の倉温泉では、温泉を中心に、宿泊施設やレストランなどがあり、訪れた人々を楽しませている。その敷地の一角に、夏(7月~9月)はブルーベリー、冬(12月~4月)は、いちごと季節の味覚狩りが楽しめる「いのさん農園」がある。

 

新しい農業スタイルとの出会いと起業

「いのさん農園」を運営するのは、「猪の倉温泉」を創業した父(現在は兄の岡田泰典さんが経営)を持つ次男の岡田孝幸さん。白山町で生まれ育ち県内の高校を卒業後、大学で物質化学工学を学んだ岡田さんは、東京丸の内にある企業に勤めた後、地元に戻りブルーベリーといちごの農業を始めた。その経緯には、都会の暮らしで感じたことがあったという。

岡田さん:僕は子どもの頃から、アトピー性皮膚炎で、親は食べるものに気を使ってくれていました。東京で働きだした頃、身体の調子が悪くなった。色々と原因はあると思うのですが、水が合わんのかなと思ったんです。僕は井戸水を飲んで育ったので、水や食べ物って大事だなと思うようになりました。

水や食べ物の身体への影響を自身で体験するなか、以前から地元で起業しようと考えていた岡田さんは、会社を辞めて学生時代に出会った農業を始めた。

岡田さん:大学時代を過ごした山形県はさくらんぼが有名で、友人のお父さんがさくらんぼ農家をやっていました。そこで知った農業が画期的でした。収穫量を増やすために、木を丸々冷蔵庫に入れて冷やし、収穫時期をずらしていたんです。僕はそれこそ山育ちなので、うちのじいちゃんが畑で大根植えて引いてるという感じが農業だと思っていて、それしか知らなかったんです。農業って、いろんなやり方があるんだなと思い、農業に興味を持ち始めました。

 

2009年から農業を始めた岡田さんはブルーベリーに着目。そこには自身の体質に関係した理由があった。

岡田さん:個人的な体験ですがブルーベリーを食べたら、アトピーの痒みが少し治まると感じたんです。調べたら「ヒスタミン」という痒みが出る成分を抑える効果があると知り「ブルーベリーって面白い!」と思いました。それにブルーベリーは土壌を使った栽培ではなく、鉢で育てる養液土耕栽培なので、昔からの農業の知識が無くても始められると可能性を感じていました。

農業を始めた岡田さんだが、周囲に経験者はいなかった。新しいスタイルで農業をしていくために、自分の強みを探した結果、行き着いたのは学生時代に培った物質化学の考え方。

岡田さん:就農した当時は農地法の関係もあり、畑も借りられない。大きくはできないので、小さくても付加価値のある作物を育てるには品質も上げ、育てやすい栽培方法でなければ利益はでません。ブルーベリーやいちごは新しい農業のスタイルに合っていたんです。

現在、いのさん農園では7月から9月上旬頃まで1000株ほどのブルーベリーを育ている。

また2016年から残留農薬0のイチゴ栽培を始めて、今では海外にも輸出している。
さらに、地元を離れて東京で暮らしていたとき、三重県の食べ物の美味しさを改めて感じた岡田さんは、生産地のことを知ってもらうために人を呼び込めないか考えた。

岡田さん:農業をやっていてすごく思うのが、海外ではGI認定(地理的表示保護制度)などが良い例ですが、物の品質だけを見られることは少なく「誰が、どこで、どんな想いで作っているのか」が評価されます。日本ではまだ糖度などの表面的な数値や価格が評価基準ですが、今後は世界規模で変わっていくと感じています。

 

新しい地方の観光は仲間とつくる

いのさん農園では、新たな取り組みとして2020年から農園に隣接する直売所「ヤマノウエ」を始めた。生のブルーベリーや、季節のアイスクリームやジュース、ジャムや酢などの地元農家こだわりの加工品の販売も行っている。

岡田さん:ここでは、自分で育て、味の違いがわかる農家ならではのブルーベリーやイチゴを使った、ここでしか味わえない商品を開発しています。

アイスクリームは、存在感のあるブルーベリーの爽やかな酸味と甘味がバニラアイスに良く合い滑らかな食感。ブルーベリーのジュースは果肉がまるごと入っていて、素材が持つ美味しさをダイレクトに味わえる贅沢な満足感。

12年ほど前に農家に転身して以降、精力的に活動の幅を広げる岡田さんにはある想いがあるという。

岡田さん:海外に出荷しているのも、外国からもこの地に来て欲しいという想いがあります。ただ私だけではできない。仲間と連携してこの地域の良さを伝えようと動き始めました。

岡田さんは2021年10月に猪の倉温泉、ゲストハウスを運営する友人、地元在住のアーティストなど白山町の仲間とともに「一般社団法人Landing in HAKUSAN」を立ち上げた。
農泊※を基本としながら移住者を増やしたり、インバウンドで海外から遊びに来てもらうなど、移住者と地元の人々からなるコミュニティを形成し、白山町の自然や文化を活かしお客さんに楽しんでもらいたいと語る。

一般社団法人Landing in HAKUSANのメンバー

一般社団法人Landing in HAKUSANのメンバー

※農泊とは、農山漁村滞在型旅行のこと。農山漁村地域に宿泊し、滞在中に、地域ならではの食事や体験を楽しむ旅行。

岡田さん:私は農業を中心として観光客の受け入れができます。実は猟師もしているのでジビエ料理の提供もできるように飲食業の許可も取りました。仲間と一緒に取り組むことで、白山町内を巡り、日本の田舎の良さを感じてもらいたいです。

 

田舎を輝かせる人の熱量

私事で恐縮だが、地元を良くしたいという想いはある。しかし、実際に動き出すには行動力が必要だ。農業に出会い、新たな道を切り開いていく岡田さん。「農福連携の事業もやりたい」と今後の夢についても、お話いただいた。岡田さんの目はキラキラと輝き、取材をしている私も、地元のために動き出す元気をいただいた。

岡田さん:僕自身が輝いて動いていないと意味がないと思うんです。田舎を楽しまないと!

 

輝ける人が日本の田舎を明るく照らすのならば、いなかの旅を愉しむフィールドは各地それぞれの魅力があり、輝ける大きな可能性があるのではないだろうか。

 


 

取材協力
いのさん農園
〒515-2621 津市白山町佐田2745
TEL 059-264-0550
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取材:2021年9月11日
文:WEBマガジンOTONAMIE canny
写真:松原 豊

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