2024.03.22

キャンプ&コテージ ふれあいの森 勢山荘

都心から離れ、丹生で地域資源を新しい形で発信。「キャンプ&コテージ ふれあいの森 勢山荘」を運営する「合同会社ピリリ」志村さくらさんの物語。

 

「ふれあいの森 勢山荘」のある三重県多気郡多気町丹生。丹生という名前の由来は、かつては辰砂や水銀を産出したことから「赤い(丹)土を産する(生)場所」ということから名付けられている。丹生の歴史は古く、村の鎮守として人々の信仰を集めてきた丹生山神宮寺は、昨年ご鎮座から1500年の節目を迎えた。神社をお守りするために丹生山神宮寺は、774年に弘法大師の師匠である勤操大徳が開山。後の813年に弘法大師によって七堂伽藍が建立された。今では親しみを持って「丹生大師」と呼ばれており、国の重要文化財に指定されている。

丹生神宮寺(丹生大師)山門

 

さらに歴史を進めると「立梅用水」の竣工がこの村を大きく支えていることが分かる。1823年に酒屋を営んでいた西村彦左衛門がこの土地の水不足問題を解消するため、粥見の立梅からの水路を立案。このおかげで村の農業は潤い、現在でも水力発電、防火用水としても利用されている。また農業用水路としては全国で初めて国の登録記念物、そして世界かんがい施設遺産にも登録された。当時の偉業は現在でも語り継がれ、毎年6月に行われる「あじさいまつり」では、満開のあじさいが咲く立梅用水を、中学生が船頭として案内してくれる。

 

西村彦左衛門像

 

立梅用水を活用する人気のめだか池に咲くあじさい

 

歴史ある多気町を一望できる「勢山荘」

 

そんな歴史ある多気町を一望できる「勢山荘」(和室コテージ)は、1996年に建てられ翌年にバンガローとテントサイトも整備。2018年に和室コテージ内装、2020年にバンガローも野外シンクや洗面・トイレ・シャワールームが1棟ずつ完備へリニューアル。

桜、あじさい、紅葉など四季折々の自然が楽しめる施設

 

現在多気町からの指定管理を受ける大師の里管理組合さんと共同事業体として宿泊部門の運営を担当する「合同会社ピリリ」の代表 志村さくらさんに施設を案内していただいた。

 

志村さん:施設は芝生の「貸切テントサイト」、3棟ある「和室コテージ」、一棟貸しの「和室コテージ(勢山荘)」があり、どれも貸切でご利用いただけます。和室コテージ(勢山荘)はお風呂も2箇所ありキッチンも広々としているので、合宿や親族の集まりごとに使ってもらうことが多いです。バンガローの目の前には、春は桜、梅雨にはあじさいを眺めながら、屋根のあるテラスでバーベキューも可能です。貸切テントサイトも1組の限定のため、小さなお子様連れのファミリーキャンプやワンちゃんサークルのオフ会グループキャンプまたキャンプ初心者でも周りの目を気にせず利用できると喜んでいただけています。

 

和室コテージの一階広間

 

新しいバンガロー、中は木の温もりが溢れている

 

宿泊エリアだけでなく、水場や公園のトイレも清潔感があり、丁寧に管理をされているのが伝わってきた。

志村さん:良かったら、地元の製茶屋さんが運営する「ふれあいの館」に行きましょう。

そう言って、丹生大師の目の前にある「ふれあいの館」に案内をしていただき、志村さんのこれ
までについて伺った。

 

地元メニューや特産品を販売する「ふれあいの館」

 

三重県の仕事をきっかけに、東京から三重へ移住

 

志村さん:私たち家族はもともと東京の日本橋にいたんです。主人はコンサルティング業をしており、伊勢の式年遷宮の時「美し国おこし・三重」のプロジェクトに関わらせていただくことになりました。その関係で多気インターが近いこちらにも拠点を置き、東京都と二重生活をした後、移住をすることにしました。

志村さんは東京では大手人材支援・情報サービス企業勤め、中小企業をクライアントとした業務で経験を積んでいた。その後はフリーランスとしてアーティストのマネジメントに携わり、人を知り、関わることの重要性に気付く。そしてご主人が三重のプロジェクトに参加することとなり、東京、三重間を往復する日々の中、最終的に三重県へ移住することとなった。

志村さん:私は大きな想いがあって住んだわけではないのですが、都心と行き来をする中で、まだ小さかった長男が「なんで東京ではこんなに家(マンション)が狭いんだ!」と言うんです。都心の騒音問題や居住地の圧迫は、子どもながらに感じていたんでしょう。幼少期にどう過ごすのが良いのかは、この時に勉強させられました。この自然いっぱいの環境で大きくなった子どもたち3人は、多種多様な性格になりました(笑)。今は仕事のことも相談して、色んな角度から意見をもらっています。

志村さんが10年前に丹生で初めて企画した「丹生ハッピーハロウィンウォークラリー」は川原さんへの相談からはじまった。(写真は3回目の集合写真)

 

話をしていると、一人の男性が声をかけてくれた。明治から創業する、丹生の製茶会社「川原製茶」の代表取締役会長である「川原平生」さんだ。川原さんは志村さんが運営担当する「キャンプ&コテージふれあいの森 勢山荘」を多気町から指定管理を受ける大師の里管理組合の会長。

 

志村さん夫妻が築きあげた信頼

 

川原さん:私はこの人の弟子や!本当にこの人が来てからこの村はだいぶ活気が出てきた。この人には感謝してるんや。

そう言って嬉しそうに会話に入ってくれた。

志村さん:そんなことないんです。川原さんのように元気に盛り上げようとしていらっしゃる方がたくさんみえるので、私はお手伝いをしているだけです。

川原さん:志村さんが管理してくれる前の「勢山荘」は、地域の組合員同士で管理していたんです。でもみんな素人だから、教育をしても接客もうまくいかず、クレームもあったりして、今後の存続をどうするかって話になっていました。そんな中「美し国おこし・三重」のプロジェクトに良い方がいるって紹介を受けて、志村さんご夫妻が引き受けてくださることになりました。でもその後すぐコロナが始まってしまって、3〜4年はだいぶ赤字だったと思うんです。でも何も言わずにずっと頑張ってくださっていて、申し訳なかった。そんな中でも経営のアイディアとか新しい地域のPR方法とか、お金を取らずに進んで行なってくださることもあって、地域全体が元気になったんです。ご主人も本当に素晴らしい方で、今は多気町の議員さんをしてもらっています。地域の人みんな、このご夫妻に対して私と同じ想いだと思います。

目を輝かせながら話をしてくださる川原さんを見て、志村さんご夫婦がどれだけこの地域に必要とされているのかが伝わってきた。

志村さん:もともと、どの地域にも地域資源というのがたくさんあるんです。それを活用するためには地域にいる方一人一人とお話しして、その方がどんなことがしたくて、どんなことをしたくないか、知ることが大切だと思っています。地域外の人が地域に入り込んで動くのではなく、地元の人が「立ち上がろう」とする機会を応援することが重要だと考えています。不思議なことに、そういうことを根源に持って動いている方を見ると、周りの人も影響され、動き出す“奇跡”を何度も見て感動してきました。

私は、県外の人に度々「三重県民は変化を望まない気質がある」と言われたことを思い出し、話題を志村さんに投げかけてみた。

志村さん:それって逆を言えば「現状に満たされている」ってことだと思います。ただ、現状維持というのは静かな衰退です。何もしなければいつの間にか村がなくなってしまう。苦しい課題として陰にフォーカスするのではなく、「未来思考」の光にフォーカスして緩やかに動き続けることをしていきたいですね。

地域の歴史や偉人に学び、今の子どもたちのシビックプライドを上げ、マインドを継承したい

 

志村さん:丹生には三井財閥の創業者である三井高利の母であり、「三井家の祖」とも呼ばれる殊法さんが住んでいました。彼女は13歳で嫁ぎ、8人もの子どもを産み、男児は経営者として教育し、女児は財閥に嫁がせています。そのきっかけもあって、毎年地元の中学生が東京の三井系企業に社会見学に行きます。子どもたちは地元にそのような素晴らしい方がいた誇りと共に、同い年くらいの女の子が我が子を立派に育て上げる、女性としての逞しさを感じられるんじゃないでしょうか。今の時代、これから何があるかわからない不安の中で「こうやって頑張ってきた人もいるから、明日も頑張ろう」と思えるきっかけが地元にあるのは良いことだと思います。

現在志村さんは勢和農村RMO協議会の事務局として、農村のコミュニティの維持、継承を推進している。最近では地域の食材を使った体験型ツアー「農村ごちそう留学」や一定時間デジタル機器と離れ自分自身を見つめ直す「デジタルデトックス」を企画し、リピーターも増やしている。2015年に開店した「少女まんが館TAKI 1735」では全国から寄贈された少女まんがが所狭しと並び、カフェメニューも充実している。

志村さん:県外に出て行っても戻ってくる人も多く、同級生同士で結婚する人たちも多いんですよ。また4年前に東京から移店した人気の「金川珈琲」をはじめ、県外から移住し経営をする人も増えているので、SNSを活用した情報発信も地域と連携して行なっています。

 

ウォーキングアプリとイラストのMAP

 

紙ベースのPRとウォーキングアプリを活用したことで、幅広い年齢層に丹生の魅力を伝えることができた。

勢山荘のあるふれあいの森から村を見下ろすと、歴史を求めにくる年配の方、自然に触れにくるファミリー、オシャレな飲食店で一息する若者など、それぞれに求めるものは違っても、みんながこの場所で笑顔になって帰っていく。

最後に志村さんの夢を尋ねた。

志村さん:この地域に住んでいる方々も訪れた方も、笑顔でいられるお手伝いをし続けたいです。

そう語る夢は、今現在目の前で形となっている。そしてその輪がさらに育まれる未来に想いを馳せた。

 


 

取材協力
「キャンプ&コテージ ふれあいの森 勢山荘」
〒519-2211 多気郡多気町丹生4867-1
電話番号: 0598-49-3881

取材:2024年2月29日
文・写真:ライター 正住さえみ

※写真一部「キャンプ&コテージ ふれあいの森 勢山荘」提供

 

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