2026.03.13

okudo中村舎

いなべの暮らしの豊かさを 未来につなぐ「古民家レストラン」 オーナーの山崎基子(やまさきもとこ)さんの物語。

 

かまどのある風景を守り、伝える

 

「おばあちゃんちに帰ってきたようなお店」がコンセプトの食事処。築220年の古民家を活用し、広々とした座敷席に加えてテーブル席も備えるなど、世代を問わず利用しやすい空間となっている。かまどで炊き上げたご飯が主役のランチには、いなべの食材をふんだんに使った数種類のおばんざいが添えられ、ボリューム、栄養ともに満足度が高い内容。

また、かまど炊き体験をはじめ、ウェディングやレンタルスペースの提供など、多彩なサービスも展開。地元の人にとっては日常の「憩いの場」として、遠方から訪れる人にとっては「本格的な和食ランチを味わえる古民家レストラン」として親しまれている。そんな温もりあふれるお店を営むオーナー、山崎基子さんにお話を伺った。

いつも笑顔で、元気にお店を切り盛りする山崎さん山崎さんは名古屋市生まれ。幼少期を四日市市で過ごした。幼い頃から絵を描くことが好きで、将来は絵本作家になることを夢見ていたという。その後、子どもと関わる仕事を志し、保育士となった。

 

山崎さん:私が昔の暮らしに興味を持ったのは、20代で保育士として働いていた頃です。勤めていた保育園は山に近く、自分たちで育てたお米を「おくどさん(かまど)」で炊いたり、子どもたちと一緒に採った山菜を味わったり、「食」を真ん中に考えた保育を行っていました。そうした日々の中で、「自然」と「食」のつながりの大切さに気づきました。もっと日本の食文化を知りたいと思うようになり、保育士を退職し、農業の勉強を始めました。

のどかな田園風景が広がる「いなべ市の風景」

 

三重県内最北に位置する「いなべ市」との出会いは、2018年にいなべ市の地域おこし協力隊に採用されたことがきっかけ。空き家と人をつなぐ活動に3年間携わる中で、築220年を数える元庄屋・中村家との縁に恵まれた。

 

山崎さん:保育士として働いていた頃から「いつか、おくどさんで炊いたご飯で卵かけご飯屋さんをしたい!」という夢を持っていたので、おくどさんのある空き家を探していました。地域おこし協力隊の活動を通して、念願の古民家と出会うことができ、本当にうれしかったです。

 

山崎さん自らも作業を行い、古民家をリノベーション

 

「伝統的な技法で建てられた古民家の風情を残す」という方針のもと改装を進め、当時の調度品をできる限り残すことにもこだわった。

 

山崎さん:多くの方々の協力をいただきながら改装が進み、少しずつ自分の夢の実現に近づいていく過程は、とても楽しく幸せな時間でした。

 

思わず長居したくなる座敷席

 

昔の暮らしを体験しながら、幅広い世代が楽しく集える食事処をめざし、2022年4月「okudo中村舎」をオープンした。

 

おくどさん」で炊いたご飯は、つやつや&ふっくら

 

 

いなべ産のコシヒカリを使って「おくどさん」で炊くご飯は、強い甘みがあり、白ご飯だけでも箸が進むおいしさがある。山崎さん自身も「これがあれば大丈夫」と確かな手応えを感じていた。しかし、オープンからの数か月間、客足が思うように伸びず、試行錯誤の日々が続いた。

 

山崎さん:当初は完全予約制で「かまど御膳フルコース」一本のスタイルでしたが、思い切って見直しました。地域の方がもっと気軽に味わえる「味ごはん」や「そば」、「カレー」などのメニューを取り入れると、少しずつお客さんが増えていきました。

 

味ごはんも味わえる「かまどおむすび定食」おむすび3個2,321円

 

「味ごはん」と一口に言っても、地域や家庭によって味付けや具材はさまざま。多くの人でにぎわう「聖宝寺もみじ祭り」で、地元のおばあさんが振る舞っていた「味ごはん」の味が忘れられず、その人を探して弟子入り。山崎さんは、作り方を丁寧に教わった。

※「聖宝寺もみじ祭り」は現在、開催されていません。

 

山崎さん:教えていただいた味をかまどで再現して、お店で出してみました。すると地元の皆さんが「おふくろの味がする!」「これは地元の味や!」と喜んでくださったんです。心からうれしい瞬間でした。

 

お店の情報や想いを届ける手書きの「中村新聞」

 

より地域に根ざしたお店にしたいと考え、積極的に情報発信を行ってきた山崎さん。しかし、SNSだけでは地元の人々に十分に届かないと感じていた。そこで、オープン当初から毎月手書きで作っていた「中村新聞」を回覧板で回してもらえないかと地域に相談。この取組もお店の認知度向上につながった。

 

山崎さん:地元の方の目にふれる機会が増えたことで、少しずつ足を運んでくださるようになりました。「使っていないものがあればお譲りください」と書いた時には、「うちの◯◯を使ってくれないか」とたくさんのご連絡をいただきました。

 

いなべの日常を味わう「素朴なごちそう」

 

お店の人気メニューは各種定食。自慢のかまど炊きご飯と、自家製の味噌・醤油を使った「昔ながらの家庭料理」を提供。ご飯や味噌汁のおいしさが評判を呼び、県内外から多くの人が訪れるほか、海外からの来店もある。

 

地元の美味を存分に味わえる「いなべ満喫定食」3,322円

 

「いなべ満喫定食」は、鶏の竜田揚げをメインに、地元の恵みを活かした贅沢な一膳。風味豊かな「そば」や野菜豊富なおばんざいが並び、彩りも豊か。

 

山崎さん:いなべ市はそばの開花時期の気温が冷涼で、昼夜の寒暖差が大きい地域。そばの受粉や結実に適した気候条件がそろっています。この気候が育んだ「いなべのそば」は、甘みと香りの高さが特徴です。まずは生そばを塩で味わっていただき、その後に自家製の出汁と割下のつゆで召し上がっていただくのがおすすめです。

 

「お豆腐の白玉ぜんざい」レギュラー748円、ミニ528円

 

食後やカフェタイムに楽しみたいスイーツも充実。中でも人気なのが「お豆腐の白玉ぜんざい」。お豆腐だけで練り上げた白玉は、温かくても冷たくても、もっちりとした食感を楽しめる。少し塩を効かせたあんことの相性も◎。

 

山崎さん:ほかにも「みつ豆パフェ」や「いなべのスイーツプレート」、平日限定の「ランチデザート&ドリンクセット」などをご用意しています。ゆっくり寛げるカフェとして利用していただけるのもうれしいです。

 

古民家体験やウェディングなどの各種サービスも充実!

 

「okudo中村舎」が大切にしているコンセプトの一つが「昔の暮らしを体験してもらう」こと。実際に今も使われている「おくどさん」での「かまど炊き体験」は大人気!

 

子どもたちの目が輝く「かまど炊き体験」

 

マッチで薪に火をつけ、火吹き竹でフーフーして、ご飯を炊いていく。炊き上がったご飯を一番に味わえるのは体験ならではの醍醐味。

 

山崎さん:お米の湯気、薪がバチバチと燃える音、香ばしいおこげ。昔ながらの食事の豊かさを、ぜひ五感で感じてみてください。

 

昔ながらの調度品が残る古民家に映える「和装姿」

 

ウェディングや祝言、成人式の前撮り、お食い初めなどの「お祝いの席」にも利用できる。食事付きのプランもあり、時間を気にせず、ゆったりとした撮影できる点も好評。

 

山崎さん:屋内・屋外どちらでも、一生の思い出に残る写真撮影が可能です。和装、洋装ともに対応しており、貸衣装や着付け、メイクも承っています。ご自身で着付けやカメラマンの手配し、場所のみの利用も大歓迎!ご予算に合わせて、お二人の門出をスタッフ一同でお手伝いさせていただきます。

 

紅葉の名所「鳴谷山 聖宝寺(めいこくさん しょうぼうじ)」

 

お店の周辺には、車で約5分の場所にある「鳴谷山 聖宝寺」があり、春の桜、夏のあじさい、秋の紅葉、冬の雪景色と、四季折々の風景が訪れる人の心を和ませる。

 

山崎さん:紅葉の時期は、多くの観光客の皆さんにランチを楽しんでいただいていますまた、三岐鉄道三岐線「西野尻駅」から徒歩約6分とアクセスも良く、鉄道ファンの方々にも立ち寄っていただける場所なんです。この古民家のさまざまな意味でのロケーションに感謝しています(笑)。

 

人が集い、つながりが生まれる場所へ

 

現在は、いなべ市観光協会の理事も務める山崎さん。豊かな自然、どこか懐かしい町並み、体験型の観光など、いなべ市の多彩な魅力を発信する活動にも力を注いでいる。

 

子どもから大人まで大盛り上がりの「餅つき&鏡餅づくり」

 

 

山崎さん:近年は若い世代の移住が増え、昔ながらの雰囲気と新しい感性の両方が楽しめる地域になってきています。ただ、世代間交流の機会はまだ多くありません。そこで、稲刈りや味噌づくりなど日本文化を学べる体験を行ったり、七夕やハロウィンの音楽祭を開催したりして、どの世代も一緒に楽しめる場づくりを心がけています。

 

落語家としても才能を発揮する山崎さん

 

「人生何でも挑戦!」をモットーに、偶数月の第4火曜日に開催している「おくど寄席」では、「かまど家たまこ」の名で落語も披露!山崎さんの軽妙な語り口は評判で、この催しを楽しみに訪れるファンも多い。

 

山崎さん:地道な情報発信やイベント企画を続けることで、少しずつ県内外の皆様に知っていただけていると感じています。今後は、家族の記念日や成長を祝う行事など、大切な節目にも使っていただけるお店にしていきたいです。

 

奥座敷のリフォームも進み、ペット連れや家族はもちろん、団体でも利用できる個室が完成(最大16名まで貸切で利用することができる)。おいしいランチを味わうために、昔ながらの体験を楽しむために、そしてこの場所を作り上げた山崎さんの人柄にふれるために――。ぜひ「okudo中村舎」を訪れてみてほしい。

______________

取材協力

okudo中村舎
〒511-0516 いなべ市藤原町西野尻1040
電話番号 0594-37-4014
HP https://okudo-nakamuraya.com/

取材:2026年2月2日
文 :新開康介
写真:亀田悟

※写真一部:「okudo中村舎」提供

 

上に戻る